補償金等請求控訴事件(中空ゴルフクラブヘッド)

解説  控訴審判決で、中間判決がされた稀有な事例である。構成要件の文言の充足性、均等侵害の成否、進歩性の欠如の有無について判断し、被告製品は発明の構成要件を文言上充足せず、文言侵害は成立しないが、発明の構成と均等なものとして発明の技術的範囲に属するとし、また、発明は進歩性を欠くとはいえず、特許は無効とは認められないとして、均等侵害が認められた補償金等請求控訴事件。
平成21年(ネ)第10006号 判決言渡 平成21年06月29日中間判決
(原審・東京地裁平成19年(ワ)第28614号)
 
第1 事案の概要
 控訴人(1審原告・横浜ゴム)は、発明の名称「中空ゴルフクラブヘッド」とする特許第3725481号の特許権者であり、被控訴人(ヨネックス・1審被告)の販売する「被告製品」は、前記特許請求の範囲の技術的範囲に属するとして、補償金を請求したものである。
 原判決は、被告製品は、構成要件(d)を文言上充足せず、発明の構成とは均等なものと解することもできず、被告製品は発明の技術的範囲に属さないとして、原告の請求棄却判決をした。これに対し、控訴人はこれを不服として控訴したものである。

第2 争点
(1)構成要件の充足性について
(2)均等侵害の成否について
(3)進歩性の欠如について

第3 裁判所の判断
 中間判決:
 被控訴人製品は、該特許の特許請求の範囲の請求項1記載の発明の技術的範囲に属する。同特許は特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないと、判示した。

争点1
 従って、被告製品は、本件発明の構成要件(d)を文言上充足せず、文言侵害は成立しない。
 構成要件(d)における「縫合材」は、そもそも、当該用語が「複数の対象物のすべてを貫き通すことによって結合させるために用いられる部材」という通常の意味から離れて用いられていることが明らかであるから、「縫合材」の通常の語義のみに従って、その内容を限定する合理性はない。従って、「金属製外殻部材の複数の(二つ以上)貫通穴を通じ、かつ、少なくとも2箇所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する」部材であることが必要である。
 被告製品の構成(d)における炭素繊維からなる短小な帯片8」は、構成要件(d)の「縫合材」であることの要件(「金属製外殻部材の複数の(二つ以上)貫通穴を通じ、かつ、少なくとも2箇所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する部材」)を充足しない。従って、文言侵害は成立しない。

争点2(均等侵害)
 当裁判所は、被告製品の構成(d)における「(炭素繊維かなる短小な)帯片8」は、本件発明の構成要件(d)における「(繊維強化プラスチック製の)縫合材」の均等物であると判断する、その理由は以下の通りである。
@ 置換可能性
 本件発明の構成要件(d)における「(繊維強化プラスチック製の)縫合材」と被告製品の構成(d)における「(炭素繊維からなる)短小な帯片8」とは、目的、作用効果(ないし課題解決原理)を共通にするものであるから、置換可能性がある。
A 置換容易性
 被告製品の製造の時点において、当業者が容易に想到することができたものと認められる。従って、置換容易性は認められる。
B 非本質的な部分か否かについて
 要件中の「一つの貫通穴ではなく複数の(二つ以上の)貫通穴に」との要件部分、「少なくとも2ヶ所で(接合(接着)する)」との要件部分は、本件発明を特徴付けるほどの重要な部分であるとは言えないこと等の事情を総合すれば、「縫合材であることは」本件発明の課題解決のための手段を基礎付ける技術的思想の中核的、特徴的な部分であると解することはできない。従って、本件発明において貫通穴に通す部材が縫合材であることは、発明の本質的部分であるとは認められない。
C 対象製品の推考容易性について
 本件の全証拠によっても、被告製品が、本件特許の出願時における公知技術と同一または当業者が公知技術から出願時に容易に推考できたものであるとは認められない。
D 意識的除外について
 本件特許の出願経過及びその過程で提出された手続補正書や意見書の内容に照らして、原告が、本件特許の出願経過において、本件発明の「縫合材」を、一つの貫通穴を通し、金属製外殻部材の上下のFRP製外殻部材と各1ヶ所で接着した部材に置換する構成を意識的に除外したと認めることはできない。
E均等の成否
 以上によれば、被告製品は、本件発明の構成と均等なものとして、その技術的範囲に属する。
F進歩性の欠如(省略)

(結論)
 以上によれば、被告製品は、本件発明の構成要件(d)を文言上充足しないが、本件発明の構成と均等なものとして、その技術的範囲に属するものであり、本件発明は進歩性を欠くものとはいえず、本件特許は無効審判により無効にされるべきものとは認められない。補償金損害賠償請求、金額等については更に審理する必要がある(中間判決であるため)。

第4 考察
 本件判決は、中間判決である。控訴審判決で、中間判決がされた稀有な事例であるとされる。また、本件判決は、均等論が認められた判決である。構造の簡単なゴルフクラブのヘッドであるから、判決の論理を追って事項の確認できるので参考にしやすい。
 また、均等の判断においては、最高裁判決が示した、5つの要件を順次検討する手法を採っているので、誠に理解しやすいケースとなっている。
 本件判決は、構成要件の文言の充足性、均等侵害の成否、進歩性の欠如の有無について判断し、被告製品は発明の構成要件を文言上充足せず、文言侵害は成立しないが、発明の構成と均等なものとして発明の技術的範囲に属するとし、また、発明は進歩性を欠くとはいえず、特許は無効とは認められないとした。
 均等侵害が認められた事例として、今後の実務上の参考となると思われるので紹介した。
以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '10/08/03