特許料納付書却下処分取消請求事件 |
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解説 |
特許管理を委託されていたCPAの過失により、第13年分の特許料の納付期間及び追納期間を徒過してしまった事例において、特許権者の立場からすると、過失があったのは、委託先であって自分には過失はないから、追納を認めるべきだと主張した原告に、法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」があるとは認められず、本件却下処分には違法はないので、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとした特許料納付書却下処分取消請求事件
(平成21年(行ウ)第517号、 口頭弁論終結 平成22年2月1日)
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第1 事案の概要 |
本件は、原告が特許権の13年分の特許料の追納期間の経過後に特許料納付書を提出して特許料及び割増特許料の納付手続をしたが、特許庁長官(被告)が該書類の却下処分をしたため、特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」があるとして、本件却下処分の取消しを求めた事案である。 |
第2 争点(被告の主張) |
本件特許料等を追納期間内に納付できなかったことについて、原告に特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」がみとめられるか。 |
第3 裁判所の判断 |
判決 原告の請求を棄却する。
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理由 |
ア 特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」 特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」とは、後記イの理由から、これと同一の文言である法121条2項(拒絶査定不服審判の追完)、法173条2項(再審請求の追完)所定の「その責めに帰することができない理由」と同様に、天災地変、あるいはこれに準ずる社会的に重大な事象の発生により、通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払っても、なお追納期間内に特許料を納付することができなかったような場合を意味すると解するのが相当であり、当事者に過失がある場合は、「その責めに帰することができない理由」がある場合には当らないと解するのが相当である。 |
イ 法112条の2は、特許料の本来の期間経過後、更に6ヶ月間の追納期間(法112条1項が経過し、特許料の不納によりいったん失効した特許権の特許権者に対し、(1)追納期間内に特許料等を納付することができなかった理由が特許権者の責めに帰することができないものであること、(2)追納期間の経過後に6ヶ月以内であって、かつ、その理由の消滅から納付すべき14日(在外者にあっては2ヶ月)以内に、納付すべきであった特許料等を納付することを要件として、特許権の回復を認めた例外的な救済の制度である。 また、訴訟行為の追完を定めた民訴法97条1項の「その責めに帰することができない事由」については、当事者に過失がある場合を含まないとの解釈がとられている。 さらに、「その責めに帰することができない事由」という文言の通常の意味からすると、当事者に過失がある場合を含まないと解釈するのが自然である。 我が国の特許法は、日本国内に住所又は居所を有する者、有しない者(在外者)の双方について、その委任による代理人が特許に関する行為を行うことを認め、その場合の代理権の範囲及び手続を規定している(法8条ないし13条)。そして、特許権の維持管理に関しても、特許権者の委任を受けた代理人がこれを行うことを認めているのであるから、特許料の納付に関する管理を含め特許権の維持管理をどのように行うかは、特許権者が自ら行うのか、外部に委託するのか、委託するのであれば誰に委託するのか等を含め、すべて特許権者である本人の意思に委ねられており、特許権者の自己責任の下に行われることである。本件に於いても、特許権者である原告は、特許権の維持管理に関して、原告本人の過失についても責任を負うことはもちろんのこと、原告の委託を受けて特許料の納付に関する管理を行っていた独立の外部事業者であるCPAの過失についても、その責任を負うべきは当然である。したがって、本件においても、特許権者である原告が委託したCPAの過失により、本件特許料等を追納期間内に納付することができなかったものであるとしても、本人である原告がその責任を負うべきは当然であって、原告に法112条の2第1項所定の「責めに帰することができない理由」があるとはいえないことは、明らかである。 |
(結論) |
以上によれば、本件特許料等を追納期間内に納付することができなかったことについて、原告に法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」があるとは認められないから、本件却下処分には違法はない。よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文の通り判決する。 |
第4 考察 |
本件判決は、特許管理を委託されていたCPAの過失により、第13年分の特許料の納付期間及び追納期間を徒過してしまった事例である。特許権者の立場からすると、過失があったのは、委託先であって自分には過失はないから、追納を認めるべきだと主張した。特許権者は「その責めに帰することができない理由」あるから、却下処分を取り消して、追納を認めるべきであるとした。 特許料納付受託者の過失を、委託した特許権者自身の過失と同視する判決は、多数の判例がある。被告は近時の5例を示しており、現行法の解釈は一致している。 従って、本条の解釈による取扱いを改める為には、権利回復による影響と、権利者の損害の救済との比較において、バランスのとれた規定となるように、法改正を検討すべき時期が来ているのではなかろうか。 また、実務上の注意点としては、受託者が細心の注意を払って業務を遂行しなければならないのは当然のことであるが、委託者側に於いても重要な特許権であれば、任せ切りにせずに、その納付を期間内に確認する等の注意を払うことが必要なのであろうか。 誰の責任であるとしても、当該特許権自体は消滅してしまい、二度と回復の手段はないのであるから、致し方ないのであろう。今後、実務上の参考となる部分があると思われるので紹介した。 以上
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