審決取消請求事件(振動発生装置) |
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解説 |
数次の補正について留意すべき事項についての事例
(平成22年(行ケ)第10051号、口頭弁論終結日 平成22年10月6日)
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第1 事案の概要 |
原告は、平成17年に出願した発明の名称「振動発生装置(請求項の数9)」とする出願をした。
審決の結論は、「第4回補正を却下した上、本件審判の請求は成り立たない」とした審決につき、取消しを求めたものである。 |
第2 争点 |
原告の主張 (1)補正却下について 本審決は、第2回補正の請求項の数が1であるのに対し、第4回補正は、項数が3に増加しているとして、17条の2第4項違反を理由に、第4回補正を却下した。この判断に誤りがある。 (2)対象となる発明の認定について 第2回補正は、補正違反を指摘されたものであるから、審理の対象となり得ないものである。本件審決の第4回補正却下の決定が誤りであり、第4回補正が審判の審理の対象となるべきものである。 |
第3 裁判所の判断 |
(1)判決 原告の請求を棄却する。 |
(2)補正却下について 補正の効果は、その手続きを行う時点の記載事項を変更するものということができるところ、第1回補正による9項の請求項を含む特許請求の範囲が、第2回補正により1項に変更され、拒絶理由に対処するため第3回補正により1項のまま特許請求の範囲が変更された後、第4回補正により3項の請求項を含む特許請求の範囲に変更されたものである。 第3回補正は、第4回補正を行う以前に却下されているので、第4回補正は、第3回補正を行う時点の特許請求の範囲の記載、即ち、第2回補正による特許請求の範囲を変更したものと言わざるをえない。そうすると、第4回補正は、第2回補正により1項の請求項とされたものを、3項の請求項を含む特許請求の範囲に変更するものである。 よって、本件審決が、第4回補正の目的は、法17条の2第4項各号のいずれの事項にも該当しないと判断したことには誤りはない。 |
(3)審判の対象となる発明の認定について 原告は、第2回補正、拒絶理由通知により補正要件違反を指摘されているため、本来であれば補正却下されることにより以降の補正の基礎となるものではない旨を主張する。 しかし、法17条の2第3項から第5項の補正の要件が記載されているところ、上記補正要件違反の場合に決定を以って補正を却下しなければならない場合として、法53条は「第17条の2第1項第3号に掲げる場合において、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が同条第3項から第5項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認られたとき」と規定している。 法159条において準用される拒絶査定不服審判については、「第17条の2第1項第3号又は第4号に掲げる場合において、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正(同項3号に掲げる場合にあっては、拒絶査定不服審判の請求前にしたものを除く。)が同条第3項から第5項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたとき」と規定している。 他方、法49条1号は「その特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとき」は、審査官はその特許出願について拒絶すべき旨の査定をしようとするときは、補正却下決定をするときを除き、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知しなければならないと規定している。 上記の通り、第2回補正は、最初の拒絶理由通知に対応してされたものであるところ、これらの規定によれば、拒絶理由通知に対してされた特許請求の範囲等の補正が、法17条の2第3項に規定する要件(新規事項追加の禁止)を満たしていないときは、出願の拒絶理由となるのであって(法49条1号)、拒絶の理由を通知しなければならない場合(法53条1項)には当たらない。 従って、第2回補正について、補正却下をしなければならない理由はない。補正が却下されない以上、第2回補正が存在しないものと扱うことは予定されていないから、これを、それ以降の補正の基礎とすることが違法であるとはいえない。 |
第4 考察 |
本件は、審決取消訴訟であり、原告は取消事由として、第2回補正は、拒絶理由通知により補正要件の違反を指摘されているため、本来であれば補正却下されることによって以降の補正の基礎となるものではく、第4回補正であるとして、第4回補正の却下の誤りや、第2回補正を審理の対象としたことが、誤りであると主張した。 判決は、第4回補正の目的は、17条の2第4項各号のいずれの事項にも該当しないから、第2回補正に係る発明を審判の審理の対象とすることに誤りがあるとは言えないとした。 また、最初の拒絶理由に対応した補正が、新規事項加入の禁止を満たしていないときは、拒絶理由となるのであって(49条1号)、拒絶の理由を通知しなければならない場合(50条)に当たるが、決定をもって補正を却下しなければならない場合(53条1項)には当たらないから、補正を却下しなければならない理由はないし、出願人には、最後の拒絶理由通知により指摘された補正についても、これを是正する機会が与えられていたことを、理由として原告の請求を棄却したものである。本件は、数次の補正について留意しなければならない事項を含んでいる。 以上
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