特許権侵害差止等請求事件(炉内ヒータおよびそれを備えた熱処理炉)

解説 特許権侵害差止等請求事件において、従来と異なる海外でのノックダウン方式についての判断で、日本国内での特許製品の譲渡の申出、生産、譲渡による特許権の直接侵害であることを認めた事例
(大阪地裁・平成21年(ワ)第15096号、判決言渡 平成24年3月22日)
 
第1 事案の概要
 本件は、発明の名称「炉内ヒータおよびそれを備えた熱処理炉」とする特許第3196261号の権利者が、被告物件の販売が、該特許権の侵害行為であるからとして、損害賠償請求を求めたものである。

第2 主な争点
 本解説では、争点のうち争点3の損害額についてのみ説明する。
 (i) 被告物件は本件特許発明の技術的範囲に属するか(省略)
 (ii) 本件特許は、特許無効審判により無効にされるべきものか(省略)
 (iii) 被告物件の海外向け販売分に係る本件特許発明の実施行為の有無
 (iv) 原告の損害(省略)
 以下は、争点3について解説する。その余の争点については省略する。

第3 裁判所の判断
 裁判所は、被告の行為を以下のように認定した。
ア 被告は、営業用パンフレットやホームページにおいて、昇降型バッチ式雰囲気焼成炉自体の販売に関する営業活動を行っていたと言うのであるから、昇降型バッチ式雰囲気焼成炉である被告物件についても、日本国内において「譲渡の申出」(特許法2条3項1号)をしていたこと窺えるところである。
イ 被告は、海外顧客向けの被告物件についても、日本国内のA工場において、必要な部品を製造又は調達して上で仮組み立ての状態まで完成させて動作確認を行っており、一部については炉体の仮焼きまで行っている。同物件は、その後、部品状態に戻されて輸出されると言うが、その日本国内における仮組み立ての段階において、本件特許発明の構成要件を充足する程度に完成していたと認められる。そうとすると、この点を捉えて、被告は、日本国内において、本件発明の実施行為である「生産」(特許法2条3項1号)したと言うことができる。
ウ なお、被告物件は、仮組み立て及び作動確認の後、部品状態に戻されて梱包の上で輸出されると言うのであるが、海外の現地での組み立て時に付加される部品があるものの、同部品は本件特許発明の構成要件とは関係がない部品であることからすれば、被告物件の上記仮組み立ての状態は、その状態で運搬が不可能と云うほど、大きいわけでもないことが窺えることからすると、一旦仮組み立てをした上で部品状態に戻すのは、運搬の便宜のためにすぎないものと認められる。
エ 従って、以上を総合して考えると、被告が、日本国内においてした被告物件の販売を巡る一連の行為は、被告物件が輸出前段階では部品状態にされていることを考慮したとしても、特許発明の実施である「譲渡」(特許法2条3項1号)であるということは妨げられないと言うことができる。
結語
 以上の通り、原告の請求につては、その一部について理由があるから、この限度で認容し、その余については理由がないから棄却するすることとし、認容する請求については仮執行宣言を付することとする。

第4 判決
  被告は、原告に対し○○円の金員を支払え。原告のその余の請求は棄却する。
  この判決は、仮に執行することができる。

第5 考察
 本件は、国内で製造・調達した部品を輸出したものを外国で組み立て完成品(商品)とする所謂ノックダウン生産と言われるものである。
 通常、ノックダウン方式と言われるものは、国内で生産した部品を部品の形態のままで輸出して、これを現地で組み立てて完成品とするものであって、日本国内においては、一度も完成品の形態は採られない形態である。
 判例も、上記形態の輸出目的で国内での「生産」について間接侵害が成立するかについては、(製パン器事件)があるが、間接侵害の成立を否定している。
 これに対して、本件は、(i)日本国内で一旦組み立て、作動確認をした後、(ii)輸送の便宜のために部品状態に戻して輸出し、(iii)現地では特許発明の構成要件と無関係な部品が調達され組み立てられる、方式であった。
 本件判決は、従来と異なるノックダウン方式についての判断で、日本国内での特許製品の譲渡の申出、生産、譲渡による特許権の直接侵害であることを認めたものである。この結果、
(1) 直接侵害・間接侵害が成立しないノックダウン方式
(2) 直接侵害が成立するノックダウン方式
との2種類があることとなった。
 今後、実務の参考になる部分があると思われるので紹介した。
以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '12/11/19