審決取消請求事件(回路接続材料、及びこれを用いた回路部材の接続構造) |
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解説 |
審決取消請求事件において、審判において新たに引用した文献を根拠に、拒絶の判断をしている点を、裁判所は違法と認めて、審決を取り消した事例 (知財高裁・平成23年(行ケ)第10315号、判決言渡し平成24年9月10日)
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第1 事案の概要 |
原告は、平成15年12月2日、名称を「回路接続材料、及びこれを用いた回路部材の接続構造」とする特許出願をした。平成20年拒絶理由通知を受け、手続補正書を提出したが、拒絶査定を受けた。平成20年11月不服の審判を請求すると共に手続補正をしたが、平成22年12月本件拒絶理由通知を受け、手続補正書を提出したが、特許庁は平成23年8月、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。これを不服として、本件審決取消訴訟を提起したものである。 |
〔審決の結論〕 本願発明は、刊行物(甲10)に記載された発明及び周知の技術事項から、相違点が容易想到と判断した。 |
第2 主な争点 |
審決は、相違点3、4の判断において、その主たる根拠として(甲13)を挙げている。甲13は、審決において初めて開示されたものであり、審査段階における拒絶理由通知書及び拒絶査定並びに審判段階における拒絶理由通知では一切引用されていない。相違点3、4について、審決の通りに判断するのであれば、審判長は、引用文献に甲13を追加した新たな拒絶理由通知を行うべきであったのであり、そのような拒絶理由がなされていれば、出願人は、意見書を提出し、また、手続補正をすることができた。 そのような拒絶理由通知をせずになされた審決は、原告の反論及び補正の機会を不当に奪ったものであり、特許法159条2項で準用する同法50条に違背した違法がある。 |
第3 判決 |
特許庁が事件について平成23年8月23日にした審決を取り消す。
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(1) 相違点3に関する判断について 審決が主引用発明として刊行物記載の発明を認定した刊行物(甲10)には、突起部を有する導電性粒子が記載されているが、甲10にはこの粒子の突起部間の距離に関しては記載されていない。そして、審決は、突起部間の距離の具体的数値に関して、甲13の記載のみを引用し、仮定にもとづく計算をして容易想到性を検討、判断している。 審決は、新たな公知文献として甲13を引用し、これに基づき仮定による計算を行って相違点3の容易想到性を判断したものと評価すべきである。すなわち、甲10を主引用発明とし、相違点3について甲13を副引用発明としたものであって、審決がしたような方法で粒子の突起間の距離を算出して容易想到性とする内容の拒絶理由は、拒絶査定の理由とは異なる拒絶の理由であるから、審判段階で新たにその旨の拒絶理由を通知すべきであった。しかるに、本件拒絶理由通知には,係る拒絶理由は示されていない。そうとすると、審決には特許法159条項、50条に定める手続違背の違法があり、この違法は、審決の結論に影響がある。 |
(2)相違点4に関する判断について 審決では、突起部の高さについても甲13の記載を挙げ、突起部の高さを50〜500nmとすることが本件出願前に周知の技術事項である、と判じしている。相違点3についてと同様に甲13を副引用発明として用いて、相違点4の想到容易性を判断したものである。甲10を主引用発明とし、相違点4について甲13を副引用発明として容易想到とする拒絶理由は、拒絶査定とは異なる拒絶の理由であるから、審判の段階で拒絶理由通知でその旨示すべきであったのに、本件拒絶理由は示されていない。 そうとすると、相違点4について甲13の記載を挙げて検討し、これを理由として拒絶審決をしたことについては、審決には特許法159条2項、50条に定める手続違背の違法があり、この違法は、審決の結論に影響がある。 |
結論 以上によれば、原告主張の取消事由3には理由がある。よって、その余の点につき判断するまでもなく、審決を取り消すこととする。 |
第4 考察 |
本件は、審判において、新たに引用した文献を根拠に、拒絶の判断をしている点を、裁判所は違法と認めて、審決を取り消したものである。 出願人サイドからすると、審査官の拒絶の理由に示されていない文献を審判の段階で引用されたものであって、納得が行かないものである。 審査の段階からであれば、出願人サイドとしても、十分に攻撃・防御の手段を尽くせたものであるに、審判の段階で新たに引用された文献によるものであれば、攻撃・防御の機会を1回失った結果となる。 このケースにおいては、審判の段階で新たな文献を引用するのであれば、拒絶理由通知を出して、出願人サイドの攻撃・防御の機会を確保すべきであることは当然であると考える。出願人サイドとしても今後、実務の参考になる部分があるかと思われるので、紹介した。 以上
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