特許権侵害差止請求事件(トンネル用内枠型、他)

解説  特許権侵害差止請求事件において、情報公開の対象文書に成っていたことのみを理由に公然知られた発明・刊行物(29条1項3号)の規定の適用があるとは言えないとの判断を示した事例
(大阪地裁・平成22年(ワ)第10064号、口頭弁論終結日 平成24年7月13日)
 
第1 事案の概要
 下記の特許権3件について権利抵触が争われた。
 @ 被告製品1(トンネル用内枠型)、
 A 被告製品2(トンネル用外型枠)
 B 原告製品(二次被覆用セントル)
が被告特許を侵害しないか。
 本解説では、@の内、刊行物の公知について、その主な無効理由についての争点を解説し、他は省略する。
第2 主な争点
被告の主張
 乙4図面は、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(情報公開法)に基づき、平成22年9月9日公開請求を行い構造図の開示を受けた。本図面には、原告の特許発明1の発明が全て開示されている。「公然と知られた発明」であり又は「刊行物に記載された発明」であるから、特許発明1は、無効である。と主張した。

第3 判決
 特許発明1を、侵害すると判断した。
 被告は、抗弁として特許発明1について、訴訟の中で「公然と知られた発明」であり又は「刊行物に記載された発明」であるから、特許発明1は無効であると主張した。
 以下の解説は、この過程で争われた争点を取り上げたものである(その他の特許については説明を省略する)。

第4 裁判所の判断
(1)乙4図面の公開による出願前公知の有無(法29条1項1号)
 被告は、乙4図面に原告特許発明1の発明が全て開示されており、情報公開法により公開されている結果、乙4図面に記載された発明は、原告特許発明1の出願前に公然と知られた発明であると主張する。
 乙4図面は、平成15年12月に作成された、祝園貯蔵庫工事に際して作成されたセントルの完成図面(概略構造図)であり、被告が、情報公開請求により入手、提出したものであって、第三者も入手可能であったことが認められる。
 しかし、法29条1項1号による「公然知られた」とは、秘密保持義務のない第三者に実際に知られていたことをいうと解されているところ、乙4図面が、原告特許1の出願日(平成17年9月27日)前に情報公開請求により第三者に対して開示されたことを認めるに足りる証拠はなく(開示された事実はなかったことが認められる)、他に、乙4図面が上記出願日前に公然知られたことを窺わせる事実の主張、立証もない。
 しかも、乙4図面は、上述した通り概略構造図であり、開閉窓より内側の収納位置から、開閉窓より先端部が突出する使用位置まで移動可能に設けられた足場形成部材が存在するかどうかまでを読み取ることは困難である。
 従って、乙4図面が情報公開の対象文書に成っていたことのみを理由に、法29条1項1号の規定の適用があるとは言えない。
(2)乙4図面の刊行物該当性(法29条1項3号)
 又、被告は、乙4図面をもって、情報公開法により公開されるべき文書であるから、情報公開法による情報公開請求が可能となった時点から、法29条1項3号の刊行物に該当すると主張する。
 しかし、法29条1項3号の「刊行物」とは、「公衆に対し、頒布により公開することを目的として複製された文書・図書等の情報伝達媒体」をいうところ、乙4図面は、頒布により公開することを目的として複製されたものとは言えない(請求があれば、その都度複製して交付することをもって、頒布ということはできない)。
 従って、乙4図面を「頒布された刊行物」であると言うことはできず、法29条1項3号の規定の適用があるとは言えない。
結論
 原告請求の差止めと廃棄を認容した。

第5 考察
 本件は、情報公開法による開示情報の取扱いについての判断を示したものである。
 「原本自体が公開されて公衆の自由な閲覧に供され、かつ、その複写物が公衆からの要求に即応して遅滞なく交付される体制が整っているならば、公衆からの要求をまってその都度原本から複写して交付されるものであっても差し支えない」(最小二昭55・7・14民集34・4・570<一眼レフカメラ事件>)があるが、それとの違いを示している。
 実務の参考になると思われるので、紹介した。
以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '13/06/01