審決取消請求事件(携帯型コンピュータ装置) |
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解説 |
審決取消請求事件における拒絶通知の手続について、新たな事由により出願を拒絶すべきと判断したことにはならないから通知する必要がないとして、拒絶理由通知において周知例を引用せず、審決において初めて引用発明に周知技術を適用して、当該相違点が当業者に容易に発明することができたと判断したことが、手続違背に当たらないとされた事例
(知的財産高等裁判所・平成24年(行ケ)第10098号、判決言渡 平成24年11月21日)
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第1 事案の概要 |
1.原告が発明の名称「携帯型コンピュータ装置」とする本願発明の特許出願を平成15年9月12日に国際出願した。平成21年8月10日付で拒絶査定を受け、不服の審判を請求した。これに対して特許庁は平成23年11月7日、「本件審判の請求は、成り立たない」との審決をしたので、これを不服として本件、審決取消訴訟を提起した。
2.審決の理由の要旨 本件審決の理由は、要するに、本願発明は、後記引用例1ないし3に記載された発明並びに後記周知例1及び2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない、というものである。 |
第2 主な争点 |
原告の主張 容易相当性に係る判断の誤り (1)一致点の認定の誤り(取消事由1) (2)相違点3ないし5の認定及び判断の誤り(取消事由2) (3)手続違背(取消事由3) 本件においては、原告は、本審決が相違点5について、審査の段階の拒絶理由通知において、周知例1及び2を引用しなかったにも拘らず、いきなり審決において初めて引用発明に周知技術を適用して、当該相違点が当業者に容易に発明できたと判断したことが手続の保障に欠け違法で、出願人の機会(補正・反論・釈明)を奪うものであると主張した。この論点についてのみ、解説する。その他の請求については、説明を省略する。 |
第3 判決 |
判決は、原告の請求を棄却した。
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第4 裁判所の判断 |
(1)原告の請求を棄却する。
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(2)理由
(イ)特許法159条、50条について 特許法159条2項が準用する同法50条は、拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合には、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない旨を規定する。その趣旨は、審判官が新たな事由により出願を拒絶すべき旨の判断をしようとするときは、出願人に対してその理由を通知することに依って、意見書の提出及び補正の機会を与えることになるから、拒絶査定不服審判手続において拒絶理由を通知しないことが手続上違法となるか否かは、手続の過程、拒絶の理由の内容等に照らして、拒絶理由の通知をしなかったことが、出願人の上記の機会を奪う結果となるか否かの観点から判断すべきである。 (ロ)本件における手続違背の有無 原告は、本審決が、相違点5について、審査段階の拒絶理由通知において周知例1及び2を引用しなかったにも拘わらず、審決において初めて引用発明に周知技術を適用して、当該相違点が当業者に容易に発明することが出来たと判断したことが違法であると主張する。 然しながら、上記周知技術を採用した場合に、表示モードの切替の際に、注目しているデーターアイテムが失われることがないという作用効果を奏することは、当業者に自明のことに過ぎない。 そうとすると、本件審決において上記周知技術を示したとしても、新たな事由により出願を拒絶すべきと判断したことにはならず、そのことが当業者である出願人に対し不意打ちになると言うことは出来ないから、本件拒絶査定不服審判手続において改めて拒絶理由を通知しなかったとしても、原告にとって意見書の提出や補正の機会が奪われたということはできない。 よって、取消事由3は、理由がない。原告の請求は棄却されるべきものである。 |
第5 考察 |
本件は、拒絶査定不服審判手続において、拒絶理由を通知しないことが手続上違法となるか否かは手続の過程、拒絶理由の内容等に照らして、拒絶理由を通知しなかったことが出願人の機会(補正・反論・釈明)を奪う結果となるか否かの観点から判断すべきであり、拒絶理由通知において周知例を引用せず、審決において初めて引用発明に周知技術を適用して、当該相違点が当業者に容易に発明することができたと判断したことが、手続違背に当たらないとされた事例である。
即ち上記の手続の経過は、新たな事由により出願を拒絶すべきと判断したことにはならないから、通知する必要がないとした。 今後の実務の参考になる部分があるかと思われるので、紹介した。 〔参考〕 特許法第50条 審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対して、意見書を提出する機会を与えなければならない。(以下略) 以上
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