損害賠償請求控訴事件(使い捨て紙おむつ)

解説 均等論について(1)
 昨年、均等論の主張を棄却した2件の知財高裁判決があった。控訴人、被控訴人は同じ、判決言渡日も同じであるが、主張の根拠となった特許権が異なり、判決の判断経路も異なったものとなっている。これについて、2回に分けて解説する。
(知財高裁・平成25年(ネ)第10002号、平成25年11月27日判決言渡)
 
第1 事案の概要
 原審判決は、発明の名称を「使い捨て紙おむつ」とする特許権(特許第4197179号)に基づく不法行為による損害賠償請求につき、被告製品は、本件各特許発明の構成要件を充足しないとして請求を棄却した。これを不服として、本件控訴が提起された。

第2 主な争点
(ア)被控訴人製品が、第1の発明の技術的範囲に属するか、文言侵害の成否、均等侵害の成否、均等侵害の主張は時機に後れた攻撃方法か否か(控訴人らは、控訴審において均等侵害の主張を追加した)。被控訴人は、均等論の第1、第4及び第5要件を充足しないとして、均等侵害の成立を争った。

(イ)被控訴人の主張
 均等論は、特許請求の範囲とは異なる構成が対象商品に存在し、特許発明と実質的に同一の目的を達していることを前提とするものである。しかるに、控訴人らの主張によれば、特許請求の範囲に記載された「脚周りにサイドフラップ無くした構成」と、各被控訴人製品における「脚周りにサイドフラップが存在する構成」とが均等であると言うものであり、結局、サイドフラップはあってもなくても良いことになり、本件発明がサイドフラップを無くした構造を採用したことが無意味になり、均等侵害の主張は失当である。

第3 判決
 本件控訴を棄却する。
(1)被控訴人製品は、構成要件Dの「裏面シートは、少なくとも脚周り部位において長手方向側縁を前記吸収体側縁にほぼ一致させることにより脚周りにサイドフラップを無くし」との構成を具備しない。各控訴人製品は、本件第1発明の構成要件Dを充足しない。
(2)本件第1発明の構成要件Dの均等侵害について
(ア)各被控訴人製品と本件第1発明1との相違点
 各被控訴人製品は、「サイドフラップ」を形成しており、本件第1発明1の構成要件D「かつ全面裏面シートは、少なくとも脚周り部位においてサイドフラップを無くし、」を文言上充足しない。各被控訴人製品は、少なくともこの点において、本件第1発明と相違する。
 均等侵害については、最高裁が示す五つの要件について判断する必要があるところ、本件では、事案の内容に鑑み、まず、置換可能性(第2要件)から判断する。

(イ)置換可能性(第2要件)について
 本件第1発明1は、構成要件Dの「サイドフラップを無くし」との構成により、脚回りをすっきりさせて見栄えの向上を図るとの作用効果を奏するものであることは前記認定の通り。サイドフラップを備えた各被控訴人製品が、上記作用効果を奏することがないことは明らかである。従って各被控訴人製品のサイドフラップを備えた上記構成は、本件第1発明1の構成要件Dと同一の作用効果を奏するとは言えず、置換可能性(第2要件)を満たすものではない。

(ウ)非本質的部分(第1要件)について
 本件第1発明の本質的部分は、構成要件C、D、E1、E2及びFの構成を採用することにより、サイドフラップを無くし脚周りをすっきりさせた見栄えの向上を図る効果を奏する点にあるものと認められる。各被控訴人製品は、構成要件Dの「サイドフラップを無くし」との構成を具備せず、サイドフラップを具備することにより、サイドフラップを無くし脚周りをすっきりさせた見栄えの向上を図る効果を奏するものではない。そうすると、両者の差異は、本件第1発明1の本質的部分に当たると言わざるを得ない。従って、各控訴人製品は、均等の第1要件をも満たさないものである。

(エ)よって、各控訴人製品について、本件第1発明1との関係において均等侵害は成り立たない。

(オ)均等侵害の主張は時機に後れた攻撃方法か
 控訴人の均等侵害の主張は、当審の第1回口頭弁論で陳述された控訴理由書に記載されており、既に提出済みの証拠に基づき判断可能なものであるから、時機に後れた攻撃方法とまでは認められない。

 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却する。

第4 考察
 我が国においては、均等論は裁判では長い間認められず、平成10年になって最高裁判決(ボールスプライン事件)で、初めて認められた。そこでは、均等論を認められる為の以下の5つの要件@〜Dを掲げている。
 前記最高裁判決は、特許請求の範囲に記載された構成要件中に対象製品と異なる部分が存在すれば特許発明の技術的範囲に属さないという一般論を述べた後で、特許請求の範囲の構成中に対象製品と異なる部分が存在する場合でも、それが、
@ 置換された要件が特許発明の本質的部分でなく、
A この要件を置換しても特許発明の目的を達し、作用効果も同一であって(この要件を「置換可能性」要件という)、
B 対象製品製造時(侵害時)において当業者にとってこの要件の置換が容易であって(この要件を「置換容易性」要件という)、
C 対象製品が特許発明の出願時において公知技術と同一または当業者に容易に推考できたものでなく、
D 対象製品が特許発明の出願手続きで意識的に除外されたものであるなどの特段の事情もないとき、
という5要件を満たすものである場合に均等を認めると判示した。
 最高裁が定めた要件は以上の通りである。先ず、構成要件の充足性を判断し、その後に、均等論を考慮する順序となる。また、裁判実務においても容易に均等論は認められないと言われている。
 何れにせよ均等論とは、第三者の利益を害することが少ないように配慮しつつ、特許請求の範囲の文言そのものから、ある程度拡張解釈をして、特許発明の適切な保護を図ろうとするものである。
 また、均等論は、特許権の本質、特許法体系に関わる問題として、深い議論に繋がる論点を蔵しているテーマなので、機会があれば紹介して行きたい。
 今後、実務の参考になる部分があるかと思われるので紹介した。
以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '14/05/16