行政処分取消義務付け等請求事件(特許査定の取消し)

解説 特許査定の取消しについての行政処分取消義務付け等請求事件
(東京地裁・平成24年(行ウ)第591号 平成26年3月7日判決言渡)
 
第1 事案の概要
 原告らは平成17年10月18日付で特許出願(本件特許出願)を行ったが平成23年2月14日付で拒絶査定を受けたので同年6月20日付で拒絶査定不服審判を請求すると同時に特許請求の範囲を補正した(本件補正)。補正が行われたことから特許庁長官は当該審判請求を本件特許出願の担当審査官に審査させることにした(前置審査 特許法第162条)。
 本件補正の内容は「拒絶理由に対応しない、原告らの真意に基づき作成されたものとおよそ考え難い」事情が認められ、また、本件補正に係る請求項の末尾の記載は「一見して特許請求の範囲の記載に矛盾を含む」ものであったが、担当審査官は、平成23年10月31日付で拒絶査定を取消し、特許査定をする旨の決定をした(本件特許査定)。
 これに対して、原告らが、本件特許査定につき取消を求める旨の行政不服審査法(行服法)に基づく異議申立てをしたが、特許庁長官は、平成24年4月26日付で却下決定をした(本件却下決定)。
 そこで、原告らが、主位的には(1) 本件特許査定が無効であることの確認(行政事件訴訟法(行訴法)3条4項所定の抗告訴訟としての無効確認訴訟)、(2) 本件却下決定の取消し(行訴法3条3項所定の裁決取消訴訟)及び、(3) 特許庁審査官につき本件特許査定を取り消すことの義務付け(行訴法3条6項2号所定の申請型義務付け訴訟)を求め、予備的には(1) 本件特許査定の取消し(行訴法3条2項所定の抗告訴訟としての取消訴訟)、(2) 本件却下決定の取消し(上記主位的請求(2)と同じ)、(3) 特許庁審査官につき本件特許査定を取り消すことの義務付け(上記主位的請求(3)と同じ)を各求めた。
 本稿は、特許査定の取消に絞って解説する。

第2 判決
1 特許庁審査官が原告らに対し特許出願2007−542886につき平成23年10月31日付でした特許査定を取り消す。
2 特許庁長官が、原告らに対し平成24年4月26日付でした行政不服審査法による異議申立てを却下する旨の決定を取り消す。
3、4、5 (略)

第3 理由
(1)特許査定については、特許法上、特許法特有の手続としての不服申立手続については特に定めが置かれていない。
 特許査定につき、たとえ特許法195条の4の「査定」の中に特許査定が含まれ、行政不服審査の申立てができないと解した場合であっても、特許査定が行政処分である以上、その訴訟の対象から除外されることはないと考えられる。
(2)特許査定に対する実体的理由に基づく不服は、特許査定された内容より有利な範囲の特許査定がされるべきであったとする不服と、実体的要件を備えないのに特許査定がされたという不服がある。後者は、無効審判が請求できるものとしており、その無効理由について詳細に定めている(特許法123条1項)。従って、それ以上に不服申立てを認める必要はないと解される。前者については、出願人は利益処分を受けたのであるから、救済手続を認める必要はない。
 そうとすると、実体的理由に基づく不服については、特許法上の救済手段が設けられており、これに加えて、行訴法に基づく、取消し又は無効確認の訴えを提起できるとされているので、不服申立手段としては十分であると考えられる。
(3)次に、特許査定に対する手続的理由に基づく不服について、出願人の手続違背の場合の取り扱いについて規定はあるものの、審査官側の手続違背を理由とする救済手段についての定めは見当たらない。行服法が制定され、行政の適正な運営を確保するために、実体的な違法理由だけではなく、手続的な違法理由をも考慮し、同法1条1項の「違法…な処分」であるか否かが審査されると言うべきである。特許査定について、特許法上、特段、審査官側の手続違背について定めがないことに照らせば、審査官の手続違背について、行服法上の不服申立て手続(行服法1条1項)を排除し、行訴上の訴えのみをその救済手段とすることが必要であり、又適切であると見るべき事情は見出せない。
(4)また、審査官は、拒絶理由を出願人が正しく理解し、これに対応した意見書の提出及び補正がされ、審査官においてこれを十分に理解して審査を行うことが予定されているのであるから、拒絶理由通知又は拒絶査定に記載された拒絶理由と補正の内容がかみ合ったものであることが、その前提として、特許法上予定されているものと言うべきである。
 そうとすると、審査官は、特許出願人の手続的利益を確保し、自らの審査内容の適正と発明の適正な保護を確保するため、補正の趣旨・真意について特許出願人に対し確認すべき手続上の義務を負うものと言うべきである。
 本件においては、本件補正の内容は、拒絶査定に記載された拒絶理由と全くかみ合っておらず、本件補正書による補正は、原告らの真意に基づき作成されたものとはおよそ考え難いものであった。以上によれば担当審査官は、本件特許査定に先立つ審査に当たり、原告らに対し、本件補正の内容が原告らの真意に沿うものであるかどうかを確認すべき手続上の義務があったところ、この義務を怠ったものであり、手続上の義務違背があったものと認められる。
 本件特許査定に手続上の重大な瑕疵があり、前記瑕疵により、本件特許査定の内容に影響が及ぶものであることは明らかであるから、本件特許査定はこの点において取消しを免れない。

第4 考察
 教科書には「特許査定」に対しては、不服審判請求はできないとされているのが通例である。学説は、特許査定に対しては、出願人が争う実益がないとして特許法195条の4の「査定」に含まれると解釈して来た。
 本判決は、特許法195条の4において行服法による不服申立てができないとされる「査定」には、特許査定の手続的理由に基づく不服を申し立てる場合には、これに含まれないとした上で、審査官に、補正の趣旨・真意について特許出願人に対して確認すべき手続上の義務があり、これに反して義務を怠ったとして手続上の違背があったとした。新たな判断として注目される。
 一般論としても、特許査定についても手続違背を理由とする不服については、行服法上の救済は認められるべきであろう。また、如何なる場合に重大な手続違背があったと認められるかであろう。
 今後、実務の参考になる部分があるかと思われるので紹介した。
 なお、平成19年4月1日以降の特許出願については特許査定後であっても所定期間内に出願を分割できるように法改正されている(ただし、(1) 拒絶査定不服審判の請求と同時に明細書等の補正があったものについて審査官が審査し(前置審査)特許査定がされた場合、(2) 拒絶査定不服審判で審決により審査に差し戻されて特許査定がされた場合は除く)(特許法第44条)が、本件特許出願はこの法律改正前の特許出願であった。
 また、特許庁が公表している「特許・実用新案審査ハンドブック」の「61 審査一般」の欄の「61.06 職権取消通知等について」には「特許査定に対する職権取消通知」の記載が存在している。
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/kijun/kijun2/handbook_shinsa.htm
以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '14/11/10