審決取消請求事件(加圧下に液体を小出しにする装置)

解説 [拒絶理由通知が必要な場合]  審決取消請求事件
(知財高裁・平成25年(行ケ)第10048号、平成26年2月26日判決言渡)
 
第1 事案の概要
 原告は、名称を「加圧下に液体を小出しにする装置」とする発明につき平成11年に特許出願した。審査の過程で4回の拒絶理由通知を受けそれぞれ手続補正を行う対応をしたが平成23年7月に拒絶査定を受けた。そこで、不服審判を請求し(不服2011―24538号(以下「本件審判」という))、同時に手続補正(以下「本件補正」という)をした。
 特許庁は、本件補正を却下した上で、「本件審判の請求は、成り立たない」との審決をした。原告は、これを不服として本訴を提起した。
 拒絶査定の備考では、拒絶査定の直前の第4回拒絶理由通知に対する手続補正で補正後の請求項1〜33のうち、請求項1〜18、等について、依然として拒絶理由が解消されていない旨の指摘がなされている一方、請求項1を引用している請求項19については審査官の判断が記載されていなかった。
 特許出願人は、本件補正において、拒絶査定を受けた請求項1に当該請求項1を引用していた請求項19の構成を含めて新しい請求項1(新請求項1)とした。
 本件審判の審尋における前置報告書では新請求項1に対して進歩性なしとする判断が示された。しかし、前置審査、本件審判の審理では、新請求項1に対して進歩性なしとする拒絶理由が審査官・審判官合議体から特許出願人に対して示され、意見を開陳する機会は与えられなかった。そして、新請求項1が独立特許要件違反(進歩性欠如)を理由に補正却下され、審判請求不成立の審決がされた。

第2 本件の争点
(1) 進歩性の有無、(2) 前置審査・審判における手続違背の有無  本解説では、(2) の手続の適法性(特に、本件補正で補正後の請求項1に係る発明についての前置審査、本件審判での手続の適法性)について説明する。
<原告の主張>
 特許法159条2項は、特許法50条を準用し、拒絶査定不服審判においては、査定の理由と異なる拒絶の理由を発見したときは拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えねばならないと規定する。
 審判に先立つ前置審査においても、審判段階においても、拒絶理由が指摘されることが無く、意見書及び手続補正書の提出の機会が与えられることがないまま、拒絶審決となったのは、特許法159条2項で準用する特許法50条の規定に反しており、その審理手続には瑕疵があり、審決は違法である。
 以上のことから、審判請求と同時に提出した本件補正によって補正した請求項1〜29を進歩性欠如によって補正却したことは違法である。

第3 判決
 特許庁が不服2011―24538号事件についてした審決を取り消す。

理由
(1)拒絶査定は、請求項1〜18、等に係る発明は特許を受けることができないとするもので、請求項19(旧請求項19)に係る発明は拒絶査定の理由となっていない。  本件補正は、拒絶査定の拒絶理由を解消するためにされたもので、本件補正後の請求項(新請求項)1は、原告が審判請求書で主張しているように、本件補正前の請求項(旧請求項)1を引用する形式で記載されていた旧請求項19を、当該引用部分を具体的に記載することにより引用形式でない独立の請求項としたものであると認められる。  そうすると、新請求項1は、旧請求項を削除して、旧請求項19を新請求項1にしたものであるから、旧請求項1の補正という観点から見れば、同請求項の削除を目的とした補正であり、特許請求の範囲の減縮を目的としたものではないから、独立特許要件違反を理由とする補正却下をすることはできない。
(2)また、旧請求項19の内容は、新請求項1と同一であるから、旧請求項19の補正という観点から見ても、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正ではない。従って、審決は、実質的には、項番号の繰り上げ以外に補正のない旧請求項19である新請求項1を、独立特許要件違反による補正却下を理由として拒絶したものと認められ、その点において誤りと言わなければならない。
(3)旧請求項19は、拒絶査定の理由とはされていなかったのであるから、特許法159条2項にいう「査定の理由」は存在しない。すなわち、第4回目の拒絶理由通知では、当時の請求項19について拒絶の理由が示されているが、これに対する手続補正により旧請求項19として補正され、その後の拒絶査定では、旧請求項19は拒絶査定の理由とされていない。従って、審決において、旧請求項19である新請求項1を拒絶する場合は、拒絶の理由を通知して意見書を提出する機会を与えなければならない。然しながら、本件審判手続において拒絶理由は通知されなかったのであるから、旧請求項19についての拒絶理由は、査定手続においても、審判手続においても通知されておらず、本件審決に係る手続は違法なものと言わざるを得ない。(なお、仮に、本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、条文上、独立特許要件違反を理由に補正却下することが可能とされる場合であったとしても、審決において、審査及び審判の過程で全く拒絶理由を通知されていない請求項のみが進歩性を欠くことを理由として、補正却下することは、適正手続の保障の観点から、許されるものではないと解される。)

第4 考察
 最後の拒絶理由通知に対応する際及び、拒絶査定不服審判請求時の特許請求の範囲の補正において、請求項を削除する補正(特許法第17条の2第5項第1号)の場合には独立特許要件が問題にされないが、いわゆる限定的減縮(特許法第17条の2第5項第2号)に該当する補正の場合には独立特許要件が問題にされる(特許法第17条の2第6項で準用する特許法第126条第7項)。
 旧請求項1を引用している旧請求項19の内容を旧請求項1に取り込んで新たな請求項1とする補正は、旧請求項1を削除して、旧請求項19を新請求項1にしたものであるから、旧請求項1の補正という観点から見れば、旧請求項の削除を目的とした補正であり、特許請求の範囲の減縮を目的としたものではなく、旧請求項19の補正と言う観点から見ても、旧請求項19の内容は、新請求項1と同一(実質的には、旧請求項19の項番号を新請求項1に繰り上げたに過ぎない)であるから特許請求の範囲の減縮を目的としたものではない。そこで、この補正は特許請求の範囲の減縮を目的としたものではないから、独立特許要件違反は問われないと判断できるとする知財高裁の判断が示された。
 最後の拒絶理由通知に対応する際及び、拒絶査定不服審判請求時の特許請求の範囲の補正で請求項繰り上げの補正を行う実務の参考になる部分があるのではないかと思い紹介した。
以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '14/12/26