行政処分取消義務付け等請求控訴事件等(特許査定の取消し・無効)

解説 行政処分取消義務付け等請求控訴事件、同附帯控訴事件において、特許法第195条の4の「査定」には特許査定、拒絶査定のいずれも含み特許査定に対して行政不服審査法による不服申立てをすることはできない、また、出願人が誤って真意と異なる内容で特許請求の範囲を減縮する手続補正書を提出した補正後の発明について特許査定をしたことをもって当該特許査定が無効であるとはいえないとした事例
(知的財産高等裁判所平成26年(行コ)第10004号、
同第10005号 平成27年6月10日 判決言渡)
 
第1 事案の概要
 一審原告らは、自らの特許出願(特願2007−542886号)について誤って真意と異なる内容で特許請求の範囲を減縮する手続補正書(本件補正)を提出し、担当審査官は、補正後の本願発明について本件特許査定をした。一審原告らは、特許庁長官に対し、本件特許査定の取消しを求めて、行政不服審査法(行服法)に基づき本件異議申立てをしたが、特許庁長官は、特許査定は異議申立ての対象にならないとして本件却下決定をした。
 一審原告らは、本件特許査定には重大な瑕疵があると主張して、一審被告に対し、本件訴訟を提起した。一審原告らは、本件特許査定の取消し(行訴法3条2項に基づく)、これを前提とする本件却下決定の取消し、等を求めた。
 原審は、担当審査官には、本件補正が一審原告らの真意に基づくものかどうかを確認すべき手続上の義務を怠った重大な手続違背があり、これをもって本件特許査定が無効とは認められないものの、本件特許査定は違法として取消しを免れない、本件異議申立ては適法であり、これを不適法とした本件却下決定は誤りであるとして、本件特許査定の取消し及び本件却下決定の取消しを求める限度で、一審原告らの請求を認容した。
 一審被告は、原判決の一審被告敗訴部分に対して控訴した。一審原告らは、原判決の一審原告ら敗訴部分に対して附帯控訴、等した。

第2 判決
1 本件控訴について
(1)原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
(2)一審原告らの請求のうち、特許庁審査官がした特許査定の取消しを求める部分に係る訴えを却下する。
(3)一審原告らの請求のうち、特許庁長官がした行政不服審査法による異議申立てを却下する旨の決定の取消しを求める部分に係る請求を棄却する。

2 本件附帯控訴について
 一審原告らの主位的請求及び予備的請求のうち一部を却下し、その余の附帯控訴を棄却する。

3 訴訟費用は、第一、二審を通じ、一審原告らの負担とする。
 本件特許査定の取消しの訴えについては本件特許査定謄本の一審原告らへの送達から6か月を経過した後に提起されているもので行訴法14条1項の定める出訴期間を徒過して提起された不適法な訴えであることから「出訴期間を遵守した適法な訴えである」とした原判決は取消された。ここでは、特許査定の取消しの訴え、等については省略し、特許法第195条の4の「査定」に特許査定が含まれるか否かの判断、本件特許査定が無効であるとする一審原告らの主張に対する判断を紹介する。

第3 理由
(1)本件特許査定に対し、行服法に基づく異議申立てが認められるか否か、端的には、特許法第195条の4の「査定」に特許査定が含まれるか否か。
(ア)一審原告らは、瑕疵ある特許査定に対する出願人の利益を保護するためには、特許法第121条が審判請求を認めない特許査定に対する不服につき、行服法による不服申立ての利益を確保する必要があるから、特許法第195条の4の「査定」から特許査定は除外されると解すべきであると主張する。しかし、現行法の下では、行服法による不服申立てが認められないとしても、行訴法に基づく抗告訴訟を提起することにより司法的救済を求めることができることはいうまでもないから、特許査定に対する不服申立ての途が閉ざされるものではない。そして、ある処分に対する不服について、司法的救済以外に救済ルートを設けるかについては、立法政策に属する問題であり、立法府の合理的裁量に委ねられたものというべきである。
(イ)法における「査定」の用法、法195条の4の規定の制定経過等に照らして、「査定」の文言は文理に照らして解することが自然であり、このように解しても、特許査定の不服に対する司法的救済の途が閉ざされるものではないこと、特許査定に対し、司法的救済のほかに行政上の不服申立ての途を認めるべきかどうかは立法府の裁量的判断に委ねられており、その判断も不合理とはいえないことからすれば、法195条の4の「査定」が拒絶査定のみに限定され、あるいは、処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定はこれに含まれないと解すべき理由があるとは認めることができない。
(ウ)そうすると、法195条の4の規定により、本件特許査定に対して行服法による不服申立てをすることは認められないから、本件異議申立ては不適法なものであって、これを前提として、本件訴訟における本件特許査定の取消しの訴えについて行訴法14条3項の規定を適用することはできない。

(2)本件特許査定が違法で無効であるとの一審原告らの主張について
(ア)一審原告らが主張するように、審査官が、特許出願に対する審査を全くすることがなかったか、あるいは実質的にこれと同視すべき場合には、これによる査定には、法の予定する審査を欠く重大な違法があるというべきである。もっとも、法が特許無効審判の制度を設けていることからすれば、特許要件の判断等について審査官がした審査の内容に誤りがあるとされるにとどまる場合には、同審判における無効理由として、同審判による是正が検討されるべきことになるものと解される。
(イ)担当審査官は、本件補正が審査基準に照らせば新規事項の追加に当たることについては、これを看過したといわざるを得ない。
(ウ)しかし、前記に検討したところによれば、本件補正後の本願発明が特許要件を具備しているかどうかについては、本願発明の進歩性、請求項の明確性、明細書のサポート要件及び実施可能要件について、それぞれ検討を経た上で本件特許査定に至ったと評価することができ、その検討過程や検討結果が、明らかに不合理であるとまでいうことはできない。
(エ)担当審査官による審査の内容を全体としてみれば、それが、およそ審査の体を成すものではなかったとか、あるいは審査していないに等しいものであったと評価することはできないものというべきである。そして、担当審査官が新規事項の追加の点を看過したことによって、本件特許査定に係る特許が無効理由を含むこととなったとしても、その点は、無効審判請求における判断対象となるにとどまり、これによって直ちに、担当審査官が全く審査をせず、あるいは実質的に審査をしなかったのと同視すべき場合において本件特許査定をしたことが裏付けられるということはできない。
(オ)以上によれば、担当審査官が、審査を全くすることなく、あるいは実質的に審査をしなかったのと同視すべき場合において本件特許査定を行ったと認めることはできず、本件特許査定が無効であるということはできない。

第4 考察
 原判決(東京地裁・平成24年(行ウ)第591号 平成26年3月7日判決言渡)は、特許法第195条の4において行服法による不服申立てができないとされる「査定」には、特許査定の手続的理由に基づく不服を申し立てる場合には、これに含まれないとした。
 本判決では、特許法第195条の4の「査定」には特許査定、拒絶査定のいずれも含むものと解されるから、特許査定に対して行政不服審査法による不服申立てをすることはできないとされた。また、本件において、出願人が誤って真意と異なる内容で特許請求の範囲を減縮する手続補正書を提出し、担当審査官が補正後の本願発明について特許査定をしたことをもって当該特許査定が無効であるとはいえないとした。
 今後、実務の参考になる部分があるかと思われるので紹介した。
 なお、原判決は昨年10月号の「特許と商標」で紹介している。
以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '16/12/26