損害賠償請求控訴事件(Web−POS方式) |
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解説 |
損害賠償請求控訴事件において、均等侵害の第2、第5要件を充足しないため、均等なものとしてその技術的範囲に属するということはできないとされた事例 (知的財産高等裁判所 平成28年(ネ)第10017号 判決言渡 平成28年6月29日)
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第1 事案の概要 |
発明の名称を「Web−POS方式」とする特許第5097246号に係る本件特許権を有する控訴人(一審原告)が、被控訴人(一審被告)に対し、被控訴人がインターネット上で運営する電子商取引サイト(本件ECサイト)を管理するために使用している制御方法が、本件特許の請求項1の発明(本件発明)の技術的範囲に属し、本件特許権を侵害すると主張し、不法行為による損害賠償請求権に基づき損害賠償請求を行った。原審(東京地方裁判所 平成26年(ワ)第34145号)は、本件ECサイトの制御方法は、本件発明の文言侵害に当たらず、その技術的範囲に属するということはできないとして、控訴人の請求を棄却した。そこで、控訴人が原判決を不服として控訴した。
控訴審において控訴人は均等侵害の主張をも行ったが、本件ECサイトの制御方法は、本件発明の構成要件を充足しないと判断されるとともに、同方法が本件発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するということはできないとされた。 ここでは控訴審で争われた争点「本件ECサイトの制御方法が本件発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するか否か」についてのみ紹介する。 |
第2 判決 |
本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。
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第3 理由 |
均等の第2要件(作用効果の同一性)について |
本件発明と本件ECサイトの制御方法は、少なくとも、ユーザが所望する商品の注文のための表示制御過程に関する具体的な構成において、本件発明においては、オーダ操作(オーダ・ボタンをクリック)が行われた際に、Web−POSクライアント装置からWeb−POSサーバ・システムに送信される情報の中に商品基礎情報が含まれているのに対し、本件ECサイトの制御方法においては、顧客が「お買い上げ」ボタンをクリックした際に、顧客のコンピュータから管理運営システム内にあるサーバに対して送信されるリクエスト情報には、Cookie情報等が含まれるが、注文された商品に係る商品基礎情報は含まれていない点において、相違する。
そこで、本件ECサイトの制御方法、すなわちオーダ操作が行われた際に、Web−POSクライアント装置からWeb−POSサーバ・システムに送信される情報に、注文された商品に係る商品基礎情報を含めずに、Cookie情報等を含めることにより、本件発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏するか否かについて検討する。 ユーザが所望する商品の注文のための表示制御過程に関する構成において、Web−POSサーバ・システムがCookie情報等は取得するものの、注文された商品に係る商品基礎情報を取得しないという本件ECサイトにおける構成を採用した場合には、本件発明のように、Web−POSサーバ・システムは、注文時点における商品ごとの価格などが含まれた基礎情報をリアルタイムに管理することができないというべきである。 本件ECサイトの制御方法、すなわち、オーダ操作が行われた際に、Web−POSクライアント装置からWeb−POSサーバ・システムに送信される情報に、注文された商品に係る商品基礎情報を含めずに、Cookie情報等を含めるという方法では、本件発明と同一の作用効果を奏することができず、本件発明の目的を達成することはできない。 したがって、均等の第2要件の充足は、これを認めることができない。 |
均等の第5要件(特段の事情)について |
均等の第5要件は、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないことである。すなわち、特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど、特許権者の側において一旦特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか、又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて、特許権者が後にこれと反する主張をすることは、禁反言の法理に照らし許されないから、このような特段の事情がある場合には、均等が否定されることとなる。
控訴人は、本件発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとの拒絶理由通知に対して、意見書を提出した。 そして、控訴人は、意見書において、引用文献1に記載された発明における注文情報には商品識別情報が含まれていないという点との相違を明らかにするために、本件発明の「注文情報」は、商品識別情報等を含んだ商品ごとの情報である旨繰り返し説明した。 そうすると、控訴人は、ユーザが所望する商品の注文のための表示制御過程に関する具体的な構成において、Web−POSサーバ・システムが取得する情報に、商品基礎情報を含めない構成については、本件発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの、又は外形的にそのように解されるような行動をとったものと評価することができる。 そして、本件ECサイトの制御方法において、管理運営システムにあるサーバが取得する情報には商品基礎情報は含まれていないから、同制御方法は、本件発明の特許出願手続において、特許請求の範囲から意識的に除外されたものということができる。 したがって、均等の第5要件の充足は、これを認めることができない。 |
まとめ |
よって、均等のその余の要件の成否につき検討するまでもなく、本件ECサイトの制御方法が本件発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するということはできない。
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第4 考察 |
特許請求の範囲に記載された構成中に、相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても、[1] 同部分が特許発明の本質的部分ではなく、[2] 同部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、[3]上記のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、[4] 対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから当該出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、[5] 対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、同対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。
本判決は、被控訴人による本件ECサイトの制御方法は、均等の第2、5要件を充足しないと判断した上で、均等のその余の要件の成否につき検討するまでもなく、本件ECサイトの制御方法が本件発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するということはできないとした。 実務の参考になる部分があると思われるので紹介した。 以上
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