特許権侵害行為差止等請求控訴事件(破袋機とその駆動方法)

解説  特許権侵害行為差止等請求控訴事件において、侵害者が立証責任を負う、特許法102条1項ただし書の規定する「販売することができないとする事情」の内容が判示されている事例
(知的財産高等裁判所 平成27年(ネ)第10091号 判決言渡 平成28年6月1日)
 
第1 事案の概要
 本件は、発明の名称を「破袋機とその駆動方法」とする発明に係る特許権(特許第4365885号(本件特許権)を有する一審原告が、被告製品は、本件特許発明の技術的範囲に属するから、一審被告が被告製品を生産、譲渡等する行為は、本件特許権を侵害する行為であるなどと主張して、一審被告に対し、@特許法100条に基づき、被告製品の生産、譲渡等の差止め並びに被告製品及びその半製品の廃棄、A不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害賠償金の一部である2816万9021円の支払を求めた事案である。
 原判決(大阪地方裁判所平成24年(ワ)第6435号)は、一審原告の請求を、@被告製品の生産、譲渡等の差止め並びに被告製品及びその半製品の廃棄、A1756万3700円(特許法102条1項)及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余は棄却した。そこで、一審原告及び一審被告が、それぞれ原判決中の敗訴部分を不服として控訴した。
 本判決では、被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するとした上、特許法102条1項の損害などについて原判決が変更された。なお、控訴審において、一審原告は、特許法102条2項に基づく損害額に係る主張を撤回し、一審被告は、無効の抗弁に係る主張を撤回している。
 争点は、技術的範囲の属否と、損害額である。ここでは、特許法102条1項の損害、特に、特許法102条1項ただし書の事情(「販売することができないとする事情」)の有無に関する判断についてのみ紹介する。

第2 判決
 一審被告は、一審原告に対し、2810万1920円及びこれに対する平成26年10月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第3 理由
A.特許法102条1項の文言及びその趣旨に照らせば、特許権者等が「侵害行為がなければ販売することができた物」とは、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品、すなわち、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りると解すべきである。また、「単位数量当たりの利益額」は、特許権者等の製品の販売価格から製造原価及び製品の販売数量に応じて増加する変動経費を控除した額(限界利益の額)であり、その主張立証責任は、特許権者等の実施能力を含め特許権者側にあるものと解すべきである。
B.特許法102条1項ただし書の規定する譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が「販売することができないとする事情」については、侵害者が立証責任を負い、かかる事情の存在が立証されたときに、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものであるが、「販売することができないとする事情」は、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情を対象とし、例えば、市場における競合品の存在、侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)、市場の非同一性(価格、販売形態)などの事情がこれに該当するというべきである。
C.特許法102条1項ただし書の事情(「販売することができないとする事情」)の有無

(1)一審被告は、「販売することができないとする事情」として、原告製品以外にも、第三者が製造販売する同種の破袋機が市場に存在し、その販売数量は、被告製品と同程度の年間1台か2台程度であったと推認されることを主張する。証拠によれば、一審原告及び一審被告のほかにも、破袋機を製造販売する第三者が存在すること、これら第三者のうちには、自社が販売する破袋機の特徴を自社の商品カタログ、ホームページにおいて紹介する者があることが認められる。
(2)しかし、本件特許発明1及び2は、破袋作業にとって優位な効果を奏するものであるところ、上記事実のみから、上記第三者の販売する破袋機が、本件特許発明1及び2と同様の作用効果を発揮するものであるとの事実を認めるに足りない。また、本件全証拠によるも、破袋機市場における販売シェアの状況や第三者が販売する破袋機の価格は不明である。したがって、上記認定事実をもって、一審原告において、被告製品の譲渡数量に相当する原告製品を販売することができない事情があるということはできず、他にその事情があると認めるに足りる証拠はない。
(3)なお、一審被告は、原告製品の価格は、被告製品の価格に比べ高額である旨主張する。しかし、対象製品が破袋機という一般消費者ではなく事業者等の法人を需要者とする製品であり、また、その耐用期間も少なくとも数年間に及ぶものであることに照らすと、上記の程度の価格差があるからといって、直ちに原告製品と被告製品の市場の同一性が失われるということはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(4)以上のとおり、本件において、特許法102条1項ただし書に該当する事情があるということはできない。

第4 考察
 特許法102条1項の規定及びその趣旨は、本件判決で判示されているように、「民法709条に基づき販売数量減少による逸失利益の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり、同項本文において、侵害者の譲渡した物の数量に特許権者等がその侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益額を乗じた額を、特許権者等の実施能力の限度で損害額と推定し、同項ただし書において、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事情を侵害者が立証したときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものと規定して、侵害行為と相当因果関係のある販売減少数量の立証責任の転換を図ることにより、従前オール オア ナッシング的な認定にならざるを得なかったことから、より柔軟な販売減少数量の認定を目的とする規定である。」
 本判決では、侵害者が立証責任を負う、特許法102条1項ただし書の規定する「販売することができないとする事情」の内容が判示されている。
 実務の参考になる部分があると思われるので紹介した。
以上


〔戻る〕
鈴木正次特許事務所

最終更新日 '17/05/08