審決取消請求事件(空気の電子化装置) |
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解説 |
実用新案の審決取消請求事件において、引用考案から本件考案に想到する動機付けの有無が進歩性の判断において行われている事例
(知的財産高等裁判所 平成28年(行ケ)第10047号 判決言渡 平成28年10月31日)
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第1 事案の概要 |
原告は実用新案登録第3133388号(出願:平成19年3月22日、登録:同年6月20日)の実用新案権者である。被告が実用新案登録無効審判を請求し、特許庁は、無効2014−400004号として審理して、平成28年1月15日、実用新案登録を無効とするとの審決をした。原告が審決の取消を求めて出訴したものである。
請求項1に係る考案(本件考案)は次の通りである。 「高電圧を流した放電針から電子を発生させる放電管の先端に電磁コイルを巻きつけ、その中心部に空気を流し込むことで空気中の酸素分子を励起させることによって一重項酸素などの活性酸素種を生成させることができる空気の電子化装置。」 審決では、本件考案は、放電管の先端に電磁コイルを巻きつけ、「その中心部に」「空気」を流し込むことで「空気」中の酸素分子を励起させることによって一重項酸素などの活性酸素種を生成させることができる「空気」の電子化装置であるのに対し、甲1(特開2004−224671号公報)記載の引用考案は、放電管の先端に電磁コイルを巻きつけ、「その中に」「酸素ガス」を流し込むことで「酸素ガス」中の酸素分子を励起させることによって一重項酸素などの活性酸素種を生成させることができる「酸素ガス」の電子化装置であるとし、本件考案において、「空気」は電子化される対象物、「中心部」は空気が流し込まれる場所であって、「物品の形状、構造又は組合せ」ではないから、考案特定事項ではなく、実質的な相違点に当たらないとして新規性を否定した。 また、仮に、これを相違点と認めるにしても、中心部に酸素含有ガスである空気を流し込む空気の電子化装置とすることは、甲2(特開昭56−45758号公報)及び甲3(特開昭57−82106号公報)記載の周知技術に基づいて当業者であれば極めて容易になし得ることであるとして進歩性を否定した。 判決で審決が取り消されたものである。ここでは、請求項1に係る考案についての進歩性の判断についてのみ紹介する。 |
第2 判決 |
特許庁が無効2014−400004号事件について平成28年1月15日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする |
第3 理由 |
甲1考案は、以下のとおり、認定すべきである(なお、下線部は、審決の認定した甲1考案と相違する箇所である。)。
「高電圧を流した針電極28から電子を発生させるイオン化室23の先端に、内部に3重電極33が配設され、コイル18が巻かれたイオン回転室24を設け、イオン化室23の中に流し込まれた酸素ガスを励起して、O2+、O2(W)、O(1D)、O、O2(b1Σg+)、O−、O2(a1Δg)、O2−を生成し、イオン回転室24において、生成したO−に対し、3重電極33及びコイル18によって発生した回転電界及び磁界をかけて回転運動を与え、酸素分子と衝突させてオゾンを生成する酸素ガスのオゾン発生装置。」 本件考案と甲1考案の一致点及び相違点は、以下のとおりであると認められる。 |
【一致点】
高電圧を流した放電針から電子を発生させる放電管を有し、活性酸素種を生成させることができる装置。 |
【相違点】
本件考案は、空気中の酸素分子を励起させることによって一重項酸素などの活性酸素種を生成させることができる空気の電子化装置であって、励起の手段が電磁コイルであるのに対して、甲1考案は、イオン化室23に流し込まれた酸素ガスを励起して生成したO−に対し、イオン回転室24において、3重電極33及びコイル18によって発生した回転電界及び磁界をかけて回転運動を与え、酸素分子と衝突させてオゾンを生成する酸素ガスのオゾン発生装置である点。 |
新規性について
本件考案と甲1考案は、励起の対象として流し込まれるガスが空気(本件考案)か酸素ガス(甲1考案)か、回転運動をさせる対象となる荷電粒子が電子(本件考案)かO−(甲1考案)か、課題解決手段が磁界(本件考案)か回転電界及び磁界(甲1考案)かという点で相違するのであって、これらの相違点は、いずれも実質的なものと認められるから、本件考案が新規性を欠くとは認められない。 |
容易想到性について
甲2及び甲3のいずれにも、空気又は酸素ガスに電界と磁界を同時に印加してオゾン等を発生させる装置が記載されていることが認められるものの、磁界のみを単独で印加することは記載されていない。 甲2又は甲3に基づき、磁界のみを単独で印加してオゾン等を発生させるという周知技術は認められない。 そうすると、甲1考案と甲2及び3から認められる周知技術を組み合わせても、「回転電界及び磁界をかけて回転運動を与え」るという構成が、磁界のみをかけて回転運動を与えるという構成になるとは認められない。 また、甲1の記載から、O−に磁界のみをかけた場合にも、現実的な装置設計の範囲内で、3重電極により発生する電界をかけた場合と同程度のオゾンの収率が確保できるのかは明らかではなく、他にこの場合のオゾンの収率を推定し得る技術常識を認めるに足りる証拠はないことを考え併せれば、甲1考案の3重電極33を省略する動機付けは認められない。 甲1考案は、オゾン生成エネルギーを有する酸素原子O−に着目し、これを回転電界により強制的に回転させ、ガスの自然拡散の方向と異なる螺旋軌道を描かせることにより、酸素分子との衝突確率を増加させ、オゾン収率の向上を図ることを課題解決手段とするものであって、甲1の記載中に、回転運動の対象となる荷電粒子を、O−から電子に変更することにつき、示唆があると認めることはできず、他に前記変更についての動機付けの存在を認める足りる事実はない。 甲1考案において、励起の対象が「酸素ガス」であり、その励起手段が「3重電極」及び「コイル」であるという構成に替えて、励起の対象が「空気中の酸素分子」であり、その励起手段が「電磁コイル」であるという構成を適用することは、動機付けを欠き、本件考案1は、甲1考案並びに甲2及び3に記載された周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたとはいえない。 |
以上のとおり、審決の認定した甲1考案の認定には誤りがあり、本件考案は、甲1考案と同一ではなく、また、甲1考案並びに甲2及び3に記載された周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたとはいえない。
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第4 考察 |
実用新案の保護対象である「考案」は、「物品の形状、構造又は組み合わせに係るもの」に限定されているが、「自然法則を利用した技術的思想の創作」である点で特許法の保護対象である「発明」と共通している。そこで、新規性、進歩性、等の判断においては、特許出願の審査基準に準じた判断が行われる。本判決では、引用考案から本件考案に想到する動機付けの有無が進歩性の判断において行われている。
実務の参考になる部分があると思われるので紹介した。 以上
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