(1)課題の認定について
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
また、発明の詳細な説明は、「発明が解決しようとする課題及びその解決手段」その他当業者が発明の意義を理解するために必要な事項の記載が義務付けられているものである(特許法施行規則24条の2)。
以上を踏まえれば、サポート要件の適否を判断する前提としての当該発明の課題についても、原則として、技術常識を参酌しつつ、発明の詳細な説明の記載に基づいてこれを認定するのが相当である。
発明が解決しようとする課題は、一般的には、出願時の技術水準に照らして未解決であった課題であるから、発明の詳細な説明に、課題に関する記載が全くないといった例外的な事情がある場合においては、技術水準から課題を認定するなどしてこれを補うことも全く許されないではないと考えられる。
しかしながら、記載要件の適否は、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載に関する問題であるから、その判断は、第一次的にはこれらの記載に基づいてなされるべきであり、課題の認定、抽出に関しても、上記のような例外的な事情がある場合でない限りは同様であるといえる。
したがって、出願時の技術水準等は、飽くまでその記載内容を理解するために補助的に参酌されるべき事項にすぎず、本来的には、課題を抽出するための事項として扱われるべきものではない(換言すれば、サポート要件の適否に関しては、発明の詳細な説明から当該発明の課題が読み取れる以上は、これに従って判断すれば十分なのであって、出願時の技術水準を考慮するなどという名目で、あえて周知技術や公知技術を取り込み、発明の詳細な説明に記載された課題とは異なる課題を認定することは必要でないし、相当でもない。出願時の技術水準等との比較は、行うとすれば進歩性の問題として行うべきものである。)。
これを本件発明に関していえば、異議決定も一旦は発明の詳細な説明の記載から、その課題を「コク、甘味、美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること」と認定したように、発明の詳細な説明から課題が明確に把握できるのであるから、あえて、「出願時の技術水準」に基づいて、課題を認定し直す(更に限定する)必要性は全くない。
したがって、異議決定が課題を「実施例1−1のライスミルクに比べてコク(ミルク感)、甘味及び美味しさについて有意な差を有するものを提供すること」と認定し直したことは、発明の詳細な説明から発明の課題が明確に読み取れるにもかかわらず、その記載を離れて(解決すべき水準を上げて)課題を再設定するものであり、相当でない。
(2)課題を解決できると認識できる範囲について
試験例1における実施例1−2のライスミルクについて図1に示された結果は、コク(ミルク感)、甘味、美味しさといった人間の感覚である食味に関する官能試験において、無作為に選出された30名のパネラーにより、基準となるライスミルクを設定して比較を行い、統計評価を行って有意差があることを確認しているのであるから、評価基準を明確化し主観を排した客観的な評価結果であると認められる。
そして、発明の詳細な説明には、本件発明1においては、課題を解決するための手段として、米糖化物並びに米油及び/又はイノシトールを含有する米糖化物調製食品とすることが記載されており、実際に図1の結果に示されるとおり、本件発明1のライスミルクに該当する実施例1−2のライスミルクが、コク(ミルク感)、甘味、美味しさの全ての点で、上記解決手段を有していない基準ライスミルク1より優れているということは、少なくとも、実施例1−2の具体的なライスミルクに関しては、上記解決手段により課題が解決されていることを裏付けるものであるといえる。
以上によれば、本件発明は、いずれも、発明の詳細な説明の記載から、「コク、甘味、美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供する」という課題を解決することができると認識可能な範囲のものであるといえる。
以上のとおり、異議決定は、サポート要件の判断の前提となる課題の認定自体を誤り、その結果、本件発明が発明の詳細な説明の記載から課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かについての判断をも誤って、サポート要件違反を理由とする特許取消しの判断を導いたものである。
したがって、その旨を指摘する取消事由2及び取消事由3は理由がある。