審決取消請求事件(台輪、台輪の設置構造及び設置方法)

解説  審決取消請求事件において、主引用発明と、副引用発明との技術分野、技術分野の関連性について検討され、主引用発明及び副引用発明に基づいて、本件発明の構成を容易に想到することができたとはいえないと判断された事例。
(知的財産高等裁判所 平成30年(行ケ)第10096号 審決取消請求事件 平成31年2月21日判決言渡)
 
第1 事案の概要

 被告らは、名称を「台輪、台輪の設置構造及び設置方法」とする発明について特許第4589502号の設定登録を受けた(本件特許)。
 原告が本件特許に係る発明についての特許無効審判を請求した(無効2017−800137号)。特許庁は「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を下し、原告が審決の取消を求めて本訴を提起した。
 争点は、進歩性判断(相違点の容易想到性の判断)の誤りの有無である。本件判決では原告の請求が棄却されて特許庁の無効審決が維持された。争点の中で、本件特許の請求項1記載の発明(本件発明1)と、主引用文献記載の発明(甲1発明)との間の3つの相違点の中の一つ(相違点3)についての判断の部分を紹介する。


第2 判決

 1 原告の請求を棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。


第3 理由

 本件発明1と甲1(実願昭58−74578号(実開昭59−181103号)のマイクロフィルムに記載された)発明とを対比すると、審決が認定するとおり、下記の一致点
で一致し、下記の相違点1〜3で相違する。

一致点
 基礎と基礎上に構築される建造物本体との間に介在される台輪において、
 複数の台輪のそれぞれは、
 前記基礎の長手方向に沿って配置される台輪本体と、
 この台輪本体の両端部にそれぞれ設けられた接続部とを備え、
 前記台輪本体の両端部の接続部には、嵌合部と当該嵌合部に嵌合可能な形状の被嵌合部とが配置され、
 前記両接続部の嵌合部と被嵌合部は、隣接する他の台輪本体の接続部の被嵌合部と嵌合部に嵌合面に沿う方向へ移動しないようにそれぞれ嵌合して接続するように構成されている、
 台輪。

相違点1
 本件発明1は「基礎上端に複数接続されて敷き込まれる」台輪であるのに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

相違点2
 本件発明1は、接続部が「台輪本体の長手方向の両端部にそれぞれ設けられ」ているのに対し、甲1発明は、接続部が台座の長手方向の両端部に設けられているのか明らかでない点。

相違点3
 接続部に関して、本件発明1は「台輪本体の両端部の接続部には、それぞれ嵌合部と当該嵌合部に嵌合可能な形状の被嵌合部とが幅方向に並んで配置され、」「嵌合部と前記被嵌合部との形成位置が前記台輪本体の長手方向の向きを逆にしても接続可能となっている」のに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

原告主張の周知技術について
 甲7(意匠登録第1044570号公報)、甲8(実用新案登録第2586977号公報)、甲10(特開平10−113475号公報)には、それぞれ、「部材の両端部の接続部には、それぞれ嵌合部と被嵌合部とが幅方向に並んで配置され、嵌合部と被嵌合部との形成位置が部材の両接続部を結ぶ方向の向きを逆にしても接続可能となっている部材」という技術事項(本件技術事項)が開示されていると認められるが、甲6(特許第2533417号公報)、甲9(特開平11−100911号公報)には、本件技術事項は開示されていない。
 そして、甲7に開示された本件技術事項は、芝生保護材に関するものであり、甲8に開示された本件技術事項は、配線路用ブロックに関するものであり、甲10に開示された本件技術事項は、乗用玩具用レールに関するものであるから、台座(台輪)に関する甲1発明とは、属する技術分野が大きく異なり、属する技術分野の関連性がほとんどないし、甲7、8、10相互の属する技術分野も大きく異なる。
 そうすると、台座(台輪)に関する甲1発明の属する技術分野において、本件技術事項が周知技術であるとは認められないし、わずか3件の知的財産権の公報における開示のみによって、本件技術事項が技術分野を問わず周知技術であるとまでは認められない。

相違点3の容易想到性について
 甲1には、長手方向の向きを逆にしても、接続部を接続可能とすることについては、記載も示唆もない。
 また、甲1発明は、「基礎と土台間に介装する通気用の台座」であって、基盤1の板面中央部にアンカーボルト2の挿通孔Hを形成し、一般の場合は、挿通孔Hより挿入したアンカーボルト2の下端をコンクリート基礎3中等間隔に埋設するなどして、この台座を使用することにより、基礎3と土台4間に等間隔の通気孔を形成するものであるから、基盤1が方形の場合はもちろん、長方形の場合であっても、いわゆる長尺物の台輪のように、長手方向の向きを変えることに手間がかかるような長さのものは想定し難く、そのような長手方向の向きを変えることが容易な台座(台輪)において、長手方向の向きを逆にしても、接続部を接続可能とすることが、周知の課題であると認めるに足りる証拠もない。
 さらに、前記のとおり、甲7、8、10には、本件技術事項が開示されているが、いずれも、台座(台輪)に関する甲1発明とは、属する技術分野が大きく異なり、属する技術分野の関連性がほとんどないし、また、本件技術事項は、台座(台輪)に関する甲1発明の属する技術分野においても、技術分野を問わないものとしても、周知技術であるとは認められない。そうすると、甲1発明に甲7、8、10に開示されている本件技術事項を適用する動機付けがあるとはいえない。
 また、仮に、本件発明1の「嵌合」が甲6の外優位型凹凸条と内優位型凹凸条とが噛み合うことを含むものと解しても、甲1発明が上記のようなものであって、上記の甲1発明の側壁に設けられた突部t及び凹部hと、甲6の前板部及び後板部の各端面に設けられた外優位型凹凸条及び内優位型凹凸条とは、その形状が相当に異なるものであり、甲1発明の接続部において、前者に代えて後者を適用すべき理由も見当たらないことに照らすと、甲1発明に甲6の接続部に係る技術事項を適用する動機付けがあるとはいえない。
 甲2〜5及び甲11〜13には、相違点3に係る本件発明1の構成は開示されていないから、甲1発明に、甲2〜5及び甲11〜13に開示された技術事項を組み合わせても、相違点3に係る本件発明1の構成には至らない。

 以上によると、甲1発明及び甲2〜13に基づいて、相違点3に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたとはいえない。


第4 考察

 特許審査基準では、進歩性の判断に関し、「主引用発明に副引用発明を適用したとすれば、請求項に係る発明に到達する場合には、その適用を試みる動機付けがあることは、進歩性が否定される方向に働く要素となる。」としている。ここで、主引用発明に副引用発明を適用する動機付けの有無は、(1) 技術分野の関連性、(2) 課題の共通性、(3) 作用、機能の共通性、(4) 引用発明の内容中の示唆という動機付けとなり得る観点を総合考慮して判断されることになっている。
 本判決では、主引用発明(甲1発明)と、副引用発明(甲7、甲8、甲10発明)との技術分野、技術分野の関連性が検討されている。
 実務の参考になるところがあると思われるので紹介した。

以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '20/05/02