審決取消請求事件
(車両のドアフレームに細長いストリップを貼付する方法)

解説  審決取消請求事件の進歩性の判断において、主引用文献記載の発明に副引用文献記載の発明を組み合わせる動機づけの有無が検討された事例
(知的財産高等裁判所 平成30年(行ケ)第10082号 審決取消請求事件 平成31年4月25日判決言渡)
 
第1 事案の概要

 原告は、名称を「車両のドアフレームに細長いストリップを貼付する方法」とする発明について特許出願(特願2013−527137号)を行い、平成28年5月31日付けで拒絶査定を受けた。原告は、拒絶査定不服審判を請求した(不服2016−15088号事件)ところ、特許庁は、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(本件審決)をし、原告が、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
 本件審決の要旨は、本願発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2010−504263号公報(引用文献1)に記載された発明(引用発明)、特表2010−512428号公報(引用文献2)に記載された技術的事項(ないし周知技術)及び技術常識に基づいて、当業者が、容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。
 本件審決が認定した本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
 「細長いストリップを車両のボディのドアフレームに取り付ける方法であって、前記方法は
 (i)駆動手段、
 (ii)貼付ヘッド、
 (iii)前記駆動手段と前記貼付ヘッドとの間に位置付けられ、かつ1つ以上のセンサユニットを備える応力制御ユニット、及び
 (iv)前記駆動手段を制御するための制御ユニット、
 を備える装置を用いて細長いストリップの貼付を含み、前記細長いストリップの貼付は、前記駆動手段によって前記細長いストリップを前進させる工程と、前記貼付ヘッドを用いて前記ドアフレームに前記細長いストリップを位置決めし、押圧し、及び/又は回転させる工程と、前記応力制御ユニット及び前記駆動手段を制御するための前記制御ユニットを用いて前記細長いストリップの応力を制御する工程と、を含み、それにより、前記応力制御ユニットの前記1つ以上のセンサユニットは、前記細長いストリップの応力を測定し、前記制御ユニットは、前記応力制御ユニットの前記1つ以上のセンサによる前記細長いストリップの応力の測定に基づいて、前記細長いストリップの応力を所望の応力範囲内に維持するために、前記駆動手段を制御する、方法。」である点。

(相違点)
 「細長いストリップ」に関し、本願発明が、「ゴムガスケットと、第1及び第2の主面を有するフォーム層及び該フォーム層の前記第1の主面に関連付けられた感圧性接着剤層を含む接着テープと、を含み、前記感圧性接着剤が架橋ゴムを含み、前記フォーム層が、アルキル基中に平均で3〜14個の炭素原子を有する1つ以上のアルキルアクリレートのアクリルポリマーを含み、前記フォーム層の密度が少なくとも540kg/m3であり、前記ゴムガスケットが、前記フォーム層の前記第2の主面に関連付けられた追加の接着剤層を介して前記接着テープに取り付けられている」ものであるのに対し、引用発明は、「感圧接着剤層を備えるウェザーストリップ」であって、ウェザーストリップ自体の材質及び感圧接着剤層の詳細な構成の特定がない点。
 原告が主張した取消事由は本願発明の進歩性の判断の誤りである。


第2 判決

 1 原告の請求を棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。
 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。


第3 理由

 相違点の容易想到性について
 引用文献1には、基部に貼付前のストリップの引張応力及び圧縮応力が基部に貼付されたストリップにしわ又は緩みをもたらし、ストリップの品質を損なうため、基部に貼付されるストリップの応力レベルを貼付前に制御する引用発明の構成を採用したことの開示がある。
 引用文献1の記載には、「車体のドア開口部に沿って設けられたウェザーストリップの隅部」において、細長いストリップの基部からの緩みをもたらし得るとの課題が示されている。そして、自動車の車体のドア開口部の隅部が湾曲した領域を有すること、湾曲した領域に貼付したテープは、平坦面に貼付したテープに比べて剥離しやすいことは技術常識である。
 しかるところ、引用文献1には、引用発明の「細長いストリップ」である「感圧接着剤層を備えるウェザーストリップ」における「感圧接着剤層」に関し、「自動車のドアまたはトランクの開口部のシールに使用されるゴムまたは他の弾性異形材を付着するために特に好適なテープ」の例として、「一方の側に弾性異形材に接合するための加熱活性化接着剤、および他方の側に、テープされた弾性異形材をドア開口部に付着するための粘着性感圧接着剤を備える二機能性の接着テープ、またはそれぞれの側に感圧接着剤を含むテープが挙げられる。」(【0005】)との記載があるが、「感圧接着剤層」の具体的な構成についての記載はない。
 他方で、引用文献2の記載は、引用文献2記載の感圧性接着剤は、自動車塗料で塗装された車体の塗装面に基材を貼り合わせるのに有用であることを示唆するものといえる。
 しかるところ、ウェザーストリップが貼付される車両本体のドアフレームの開口部が自動車塗料で塗装された塗装面であることは、技術常識である(例えば、乙2(特開平7−97562号公報)の【0035】、乙3(特開2009−286882号公報)の【0097】及び【0101】)。
 そうすると、引用文献1及び2に接した当業者においては、貼付されるストリップの応力レベルを貼付前に制御する引用発明を使用して、車体のドア開口部に沿ってウェザーストリップを貼付する際に、湾曲した領域を有する隅部においてウェザーストリップが剥離することを防止するため、引用発明の「感圧接着剤層を備えるウェザーストリップ」の「感圧接着剤層」として、自動車塗料で塗装された車体の塗装面に基材を貼り合わせるのに有用である引用文献2技術(「感圧性の第1スキン接着剤からなる第1接着層」と「感圧性の第2スキン接着剤からなる第2接着層」を有する「テープ」)を採用する動機付けがあるものと認められる。
 また、引用文献2技術の構成に照らすと、引用文献2技術の「第1スキン接着剤」は実質的に「架橋ゴムを含む」ものと認められる。
 以上によれば、引用文献1及び2に接した当業者においては、引用発明において、引用文献2技術を適用して、相違点に係る本願発明の構成とすることを容易に想到することができたものと認められる。


第4 考察
 進歩性の判断において、主引用文献記載の発明に副引用文献記載の発明を組み合わせる動機づけの有無は論点となるところである。本判決では動機づけの有無の検討が行われている。
 実務の参考になるところがあると思われるので紹介した。
以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '20/05/02