審決取消請求事件(アプリケーション生成支援システム
およびアプリケーション生成支援プログラム)

解説  審決取消請求事件において、特許庁が進歩性欠如と判断したものを、動機付けの有無について知財高裁が検討し、特許庁の判断を取り消した事例。
(審決取消請求事件 知的財産高等裁判所 平成30年(行ケ)第10146号 令和元年6月27日判決言渡)
 
第1 事案の概要

 原告は、発明の名称を「アプリケーション生成支援システムおよびアプリケーション生成支援プログラム」とする発明について特許出願し(特願2017−124385号)、審査を受けたところ拒絶査定を受け、拒絶査定不服審判を請求した(不服2018−3406号)。これに対して「本件審判の請求は、成り立たない」との審決(本件審決)が下され、原告が、取消を求めて出訴した。
 ここでは本件審決で進歩性欠如とされた補正後の請求項1記載の発明(本件補正発明)についての取消事由の判断部分のみを紹介する。本判決では、本件補正発明の進歩性を否定した本件審決が取り消された。
 本件審決及び本判決において認定された本件補正発明と引用発明(特許第5470500号公報(引用文献1)記載の発明)との一致点及び相違点1は以下の通りである。

一致点
 「携帯通信端末の所定の機能を実行させるためのパラメータに応じて、前記携帯通信端末において実行されるアプリケーションの動作を規定する設定ファイルを設定する設定部と、前記設定ファイルに基づいてアプリケーションパッケージを生成する生成部と、を有するアプリケーション生成支援システム」である点。

相違点1
 設定ファイルを設定するパラメータが、本件補正発明では、「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータ」であるのに対して、引用発明では、携帯通信端末の機能を実行させるためのパラメータではあるものの、携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータであることが特定されていない点。


第2 判決

1 特許庁が不服2018−3406号事件について平成30年11月30日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。


第3 理由

 本件審決は、引用発明に引用文献2〜5及び参考文献1記載の技術(同技術に乙3文献記載の技術を併せて、以下「被告主張周知技術」という。)を適用することにより、本件補正発明に想到し得ると判断していることから、引用発明に被告主張周知技術を適用する動機付けの有無について検討する。
 引用発明は、アプリケーションサーバにおいて検索できるネイティブアプリケーションを簡単に生成することを課題として、同課題を、既存のウェブアプリケーションのアドレス等の情報を入力するだけで、同ウェブアプリケーションが表示する情報を表示できるネイティブアプリケーションを生成することができるようにすることによって解決したものであるから、ブログ等の携帯通信端末の動きに伴う動作を行わないウェブアプリケーションの表示内容を表示するネイティブアプリケーションを生成しようとする場合、生成しようとするネイティブアプリケーションを携帯通信端末の動きに伴う動作を行うようにする必要はなく、したがって、設定ファイルを設定するパラメータを「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行するためのパラメータ」とする必要はない。
 もっとも、引用文献1の段落【0024】には、ブログ等と並んで「ゲームサイト」が掲げられており、ゲームにおいては、加速度センサにより横画面と縦画面が切り替わらないように制御する必要がある場合が考えられる(引用文献5参照)が、ウェブアプリケーションとして提供されるゲームは、@常に携帯通信端末の表示画面を固定する必要があるとはいえないこと、A加速度センサにより、携帯通信端末の姿勢に対応した画面回転表示を制御する機能は携帯通信端末側に備わっており、端末側の操作によって、表示画面を固定することができ、そのような操作は一般的に行われていること、B引用文献1の段落【0024】の「ゲームサイト」は、携帯通信端末の表示画面を固定する必要のないブログ、ファンサイト、ショッピングサイトと並んで記載されており、また、引用文献1には、加速度センサについて何らの記載もないことからすると、当業者は、上記の「ゲームサイト」の記載から、パラメータを「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行するためのパラメータ」とすることの必要性を認識するとまではいえないというべきである。
 また、引用発明によって生成されるネイティブアプリケーションは、HTMLやJavascriptで記述されるウェブページを表示できるから、引用発明により、乙4に記載されたHTML5 APIのGeolocationを用いて携帯通信端末の動きに伴う動作を行うウェブアプリケーションの表示内容を表示するネイティブアプリケーションを生成しようとする場合も、生成されるネイティブアプリケーションは、設定情報に含まれているウェブアプリケーションのアドレスに基づいて、同ウェブアプリケーションに対応するウェブページを取得し、取得したウェブページのHTMLやJavascriptの記述に基づいて、同ウェブアプリケーションの内容を表示でき、したがって、ネイティブアプリケーションの生成に際して、設定ファイルを設定するパラメータを「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータ」とする必要はない。
 さらに、被告主張周知技術に係る各種文献にも、引用発明の上記の構成の技術において、「携帯通信端末に固有のネイティブ機能を実行させるためのパラメータ」に応じて設定ファイルを設定することの必要性等については何ら記載されていない(甲2〜5、7、8、乙1〜3)。  引用発明は、簡易にネイティブアプリケーションを生成することを課題として、既存のウェブアプリケーションのアドレス等の情報を入力するだけで、当該ウェブアプリケーションが表示する情報を表示するネイティブアプリケーションを生成できるようにしたのであり、具体的には、入力しようとするウェブアプリケーションのロケーションを示すアドレス及び表示態様に基づいて、テンプレートアプリケーション111に含まれる設定情報の内容を書き換えるだけで目的とするウェブアプリケーションの表示する情報を表示できるネイティブアプリケーションを生成でき、テンプレートアプリケーション111に含まれるプログラムファイル113については、新たにソースコードを書く必要はないところ、証拠(甲3、5、7、乙1〜3)によると、PhoneGapによってネイティブアプリケーションを生成するためには、HTMLやJavascript等を用いてソースコード(プログラム)を書くなどする必要があるものと認められるから、引用発明に、上記のように、新たにソースコードを書くなどの行為が要求されるPhoneGapに係る技術を適用することには阻害事由があるというべきである。
 以上のとおり、引用発明に被告主張周知技術を適用することの動機付けはないから、引用発明に被告主張周知技術を適用して、相違点1の構成について、本件補正発明の構成とすることは容易に想到することはできず、したがって、本件補正発明は、引用発明及び被告主張周知技術に基づいて容易に発明することができたということはできない。


第4 考察

 特許審査基準によれば、審査を受けている発明と主引用発明との間の相違点に関し、進歩性が否定される方向に働く要素(例えば、主引用発明に副引用発明を適用する動機付け)に係る諸事情に基づき、副引用発明を適用したり、技術常識を考慮したりして、論理付けができるか否かを判断し、論理付けできると判断したときには進歩性欠如、論理付けができないと判断した場合は進歩性を有すると判断することになっている。本件は、特許庁が進歩性欠如と判断したものを、動機付けの有無について知財高裁が検討し、特許庁の判断を取り消したものである。
 実務の参考になるところがあると思われるので紹介した。

以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '20/05/16