審決取消請求事件(ベッド等におけるフレーム構造)

解説  審決取消請求事件の進歩性の判断(対比する発明の認定)において、進歩性があると特許庁が判断した発明について、引用されている先行技術を同一にしながら、知財高裁で進歩性なしと判断された事例。
(知的財産高等裁判所 令和2年(行ケ)第10058号 審決取消請求事件
令和3年2月25日判決言渡)
 
第1 事案の概要

 被告は、発明の名称を「ベッド等におけるフレーム構造」とする発明に係る特許第3024698号特許権(本件特許)の特許権者である。
 原告が本件特許の請求項1、2に記載された発明(本件発明1、本件発明2)に対し特許無効審判を請求し、特許庁は、これを無効2018−800154号事件として審理し、令和2年3月30日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(本件審決)を下した。原告が本件審決の取り消しを求めて出訴した。
 争点は本件特許の出願日より前に販売が行われていた手術台(製品1)に基づく新規性、進歩性の欠如に関するものである。ここでは、進歩性の存在を認めた本件審決の判断に誤りがあるとして知財高裁が本件審決を取り消した取消事由2(進歩性判断の誤り)に関する部分だけを紹介する。


第2 判決

1 特許庁が無効2018−800154号事件について令和2年3月30日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。


第3 理由

製品1に開示されていることが認められる発明(製品1発明B)と、本件発明との対比

本件発明1との対比
 本件発明1と製品1発明Bとの一致点及び相違点は以下のとおりとなる。
(ア) 一致点
 「ベッド等において、床板を支えるフレームを、フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成したことを特徴とするベッド等におけるフレーム構造」である点。

(イ) 相違点1
 本件発明1が、「床板を支えるフレームを、フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した」目的が、「使用者の体格に対応させる」ためであるのに対し、製品1発明Bは、その点が明らかではない点。

本件発明2との対比
 本件発明2と製品1発明Bとの一致点及び相違点は以下のとおりとなる。

(ア) 一致点
 「ベッド等において、床板を支えるフレームのうち、足側床板に対応する足側フレームを、異なった寸法規格のものに、交換装着可能に構成したことを特徴とするベッド等におけるフレーム構造」である点。

(イ) 相違点2
 本件発明2が、「足側フレームを、・・・異なった寸法規格のものに、交換装着可能に構成」することの目的が、「使用者の体格に対応」するためであるのに対し、製品1発明Bは、その点が明らかではない点。

相違点1及び相違点2の判断

周知技術について
 本件特許の出願時には、手術台のテーブルトップは、患者の身長に応じた長さとすることが望まれており、医療機関において、テーブルトップの長さを調整できる手術台の要望があったこと、その要望に応えるために、各種の大きさのコンポーネントを組み合わせて、適宜の長さのテーブルトップとする手術台が販売されており、また、小児外科においては、長さが可変の手術台が一定程度普及していたことが認められる。

製品1発明Bの実施態様について
 製品1発明Bの実施態様として、長身の患者に対応するために、「置き換え」ではないものの、足側の背板の先に頭板を付け加えることは行われていたものと認められる。

容易想到性
 製品1発明Bにおいては、患者の頭部側から順に、@背板、座板、足板の組合せ、A背板(短)、座板、背板の組合せ、B背板(短)、座板、足板の組合せを適宜選択し、各組合せによるテーブルトップとし、また、C各種頭板、背板、座板、足板の組合せ、D各種頭板、背板(短)、座板、背板の組合せ、E各種頭板、背板(短)、座板、足板の組合せを適宜選択し、各組合せによるテーブルトップとすることが可能であり、上記@の組合せを上記Aの組合せに変更することや上記Aの組合せを上記Bの組合せに変更すること、上記Cの組合せを上記Dの組合せに変更することや上記Dの組合せを上記Eの組合せに変更することも可能であるところ、甲1、2、4及び5※には、これらの組合せを禁止したり、推奨しない旨の記載もなく、かえって、前記3のとおり、甲2には、「マッケ手術台システム1120は、モジュール方式でデザインされ」(2頁)、「広く世界的に採用されている非常にフレキシブルなモジュール方式の手術台システムです。」との記載がある。
 ※甲1、2、4、5は製品1について本件特許の出願日より前に発行されていたカタログ、等
 そして、前記イのとおり、製品1において、患者の背が高い場合には、足側の背板の先に頭板を付け加える使用方法が行われていたことからすると、前記アのとおり、手術台のテーブルトップを患者の身長に応じた長さとすることが望まれており、その要望に応えるために各種のコンポーネントを組み合わせることなどが行われていることを知る当業者は、製品1発明Bにおいて、患者の身長に対応させるために各種モジュールを取り換えて手術台を患者の身長に対応したものとすることを容易に想到することができたものと認められる。
 以上より、取消事由2は理由がある。
 そうすると、その余の取消事由について判断するまでもなく、原告の主張した無効理由は認められないとした本件審決の判断は誤りであるから、本件審決は取り消されるべきである。


第4 考察

 進歩性があると特許庁が判断した発明について、引用されている先行技術を同一にしながら、知財高裁で進歩性なし、と判断されたものである。
 本判決では判断の前提として「本件発明の要旨」が検討され、本件発明1、2における発明特定事項である「フレーム」、「フレームの一部を異なった長さの交換装着用フレームに置き換え可能に構成した」、「足側フレームを、・・異なった寸法規格のものに、交換装着可能に構成した」、「使用者の体格に対応させるべく」、「使用者の体格に対応して」などの意味・内容(どのような条件が満たされていれば足り、どのような場合が含まれるのか、いかなる意味のものであって、いかなるものは含まれないのか、あるいは、いかなる構成に限定する意味であるのか)を本件特許の明細書、等の記載に基づいて慎重に検討して定義している。
 発明の進歩性についての検討・判断は、審査を受けている発明と主引用文献記載の発明とを対比し、一致点、相違点を認定するところから始まる。これが適切になされていなければ異なる結論になり得る。
 実務の参考になるところがあると思われるので紹介した。

以上


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '22/1/30