本件審決が認定した本件発明と甲1発明との間の一致点
吐出流路において、油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し、油が分離された圧縮ガスを送り出す一方、スクリュロータの両側に延びるロータ軸をラジアル軸受により回転可能に支持して入力軸を吸込側のロータ軸とし、吐出側のロータ軸を上記ラジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてスラスト軸受により回転可能に支持するとともに、上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け、このバランスピストンのスラスト軸受側の空間に、油を導く経路を設けて形成した油冷式スクリュ圧縮機
本件審決が認定した本件発明と甲1発明との間の相違点3
バランスピストンのスラスト軸受側の空間に、油を導く経路を設けて形成したことに関して、本件特許発明においては、バランスピストンの仕切り壁側の空間に、「上記油溜まり部の油を加圧することなく導く」均圧流路を設けて形成したのに対し、甲1発明においては、スラストピストン62の上記アンギユラコンタクトボールベアリング56側の空間であるスラストピストン室60に、高圧ガスから分離されて冷却されてコンプレツサへと再循環される液体を、ポンプ140を経由して導く経路を設けて形成した点。
相違点3の容易想到性に関する本件審決の認定
甲1発明において、「コンプレツサ内の必要な全ての個所」に供給する液体の一部を、あえて、マニフオールド134を迂回して、スラストピストン室60に供給するための経路を新たに設けるようにすることは、コンプレツサ外部に位置されなければならない液体パイプ接合の数を最少とする中間ハウジング30及びマニフオールド134の採用意義に反するものである。
甲1発明において、相違点3に係る本件特許発明の発明特定事項のようにするために、液体をポンプ140で加圧せずにマニフオールド134に供給するという手段も考えられるが、ポンプ140で液体を加圧しているのは、スラストピストン62に適当な力を与えるためのみならず、コンプレツサ内の必要な全ての個所に液体流を供給するためでもあるから、「液体をポンプ140によって加圧した上でマニフオールド134に供給するようにした」こと自体が、中間ハウジング30及びマニフオールド134の設置前提となるものであり、液体をポンプ140で加圧せずにマニフオールド134に供給することも、中間ハウジング30及びマニフオールド134の採用意義に反するものである。
したがって、甲1発明において、液体を加圧することなくスラストピストン室に導く構成を採用することに阻害要因があるといえるから、仮に、液冷式スクリュー圧縮機において、バランスピストン室に油溜まり部の油を加圧することなく導入することが甲2(特開昭57−159993号公報)、甲3(国際公開第95/10708号)、甲4(特開昭57−122188号公報)、甲5(実開昭64−34493号)に記載され、かかる事項が周知の技術であったとしても、甲1発明に甲2ないし甲5を適用することはできず、当業者といえども相違点3に係る本件特許発明の発明特定事項を得ることはできない。
当裁判所の判断
相違点3(非加圧流路)について
当裁判所は、甲1発明に、甲2ないし5に記載された周知技術を適用し、加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段により、バランスピストンのピストン室にオイルをポンプで加圧することなく供給し、相違点3に係る本件特許発明の構成を採用することは、容易に想到することができたから、本件審決の相違点3に関する判断は誤りであると判断する。その理由は、以下のとおりである。
逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という技術的課題
甲2には、「バランスピストンに油ポンプで加圧された潤滑・冷却シール用の圧油を作動油として供給している従来のスクリユー圧縮機においては、特に起動時、圧縮機の吸入側と吐出側の圧力差が大きくならないうちに油ポンプにより吐出された圧力の高い油がバランスピストンにかかることにより、ロータが吐出側に推され、スラスト軸受及びスラスト軸受抑え金などに過大な応力がかかるという課題がある」こと、すなわち、逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)が発生するという技術的課題が示されていた。
そして、甲1発明は、高圧ガスから分離されて冷却されてコンプレツサへと再循環される液体を、ポンプ140を経由してスラストピストン室60に導く経路を設けて形成した液体噴射スクリユウコンプレツサであるが、逆スラスト力が発生しないことを裏付けるような事情はないから、甲1発明は、逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という技術的課題を有しているものと認められる。
非加圧流路の設定に係る周知技術
甲2ないし5には、スクリュ圧縮機において、バランスピストンに圧力を作用させるための空間に、圧縮機から回収された油を加圧することなく導く配管を設けることが記載されていたものであり、それは、本件特許の出願日前に周知の技術事項であったものと認められる。
容易想到性
甲1発明は、逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という技術的課題を有しており、スクリュ圧縮機において、バランスピストンに圧力を作用させるための空間に、圧縮機から回収された油を加圧することなく導く配管を設けることは本件特許の出願日前に周知の技術事項であったから、甲1発明の上記課題を解決するために、上記の周知の技術事項を適用して、スラストピストン室へ液体を導く経路を非加圧の経路とすることは、当業者が容易に想到することができたものであると認められる。