発明の効果について
予測できない顕著な効果について
発明の効果が予測できない顕著なものであるかについては、当該発明の特許要件判断の基準日当時、当該発明の構成が奏するものとして当業者が予測することのできなかったものか否か、当該構成から当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点から検討する必要がある(最高裁判所平成30年(行ヒ)第69号令和元年 8月27日第三小法廷判決・集民262号51頁参照)。
もっとも、当該発明の構成のみから、予測できない顕著な効果が認められるか否かを判断することは困難であるから、当該発明の構成に近い構成を有するものとして選択された引用発明の奏する効果や技術水準において達成されていた同種の効果を参酌することは許されると解される。なお、予測できない顕著な効果の立証責任は特許権者にあるから、当該発明の構成から奏する効果が不明であるからといって、直ちに予測できない顕著な効果があるとすることはできない。
前示のとおり、相違点1及び2の構成は容易想到であるが、これに対し、被告は、本件発明が、@増悪椎体骨折抑制効果は新規椎体骨折抑制効果よりも低いと予測されるところ、本件発明の構成では新規椎体骨折抑制効果と同等以上に増悪椎体骨折抑制効果が高いこと(効果@)、A本件発明の構成による増悪椎体骨折の相対リスク減少率(RRR)が連日投与のフォルテオの同RRRと比較して予想外に高いこと(効果A)、B増悪椎体骨折抑制効果がPTH連日投与から想定されるBMD増加率から予測できないか、又は本件発明の構成から想定されるBMD増加率から予測されるもの よりも高いこと(効果B)を当業者が予測をすることができなかった顕著な効果である旨主張するから、その主張する各効果が認められるか否かを検討する。
効果@について
本件基準日において、治療効果を表す指標として相対リスク減少(率)(RRR)が、有益性を示す指標として絶対 リスク減少(率)(ARR)とNNTが知られており、RRRだけでは、臨床上のわずかな差が大きな数字に置き換えられてしまうことがあるので、治療効果を正しく判断するためには、RRRのみでなく、ARRやNNTをみる必要があることが技術常識であったといえる。
そして、本件明細書【表20】及び【表34】にも、それぞれ、増悪椎体骨折発生率又は新規椎体骨折発生率に関し、「投与72週後の被 験薬投与群の骨折発生率と対照薬投与群の骨折発生率の差(%)」(ARRに相当)が記載されているところである。
・・・・。このように、【表20】で示される増悪椎体骨折の絶対リスク減少率の値と、甲57文献および甲98文献で示される増悪椎体骨折の絶対リスク減少率の値が似通ったものであり、【表34】で示される新規椎体骨折の絶対リスク減少率の値と甲57文献で示される新規椎体骨折の絶対リスク減少率の値が似通ったものであることを併せ鑑みると、【表20】及び【表34】から、PTH200単位週1回投与群のプラセボ投与群に対する新規椎体骨折の相対リスク減少率が79%と、同増悪椎体骨折の相対リスク減少率が83%と算定されるからといって、単純に、本件発明における増悪椎体骨折抑制効果が新規椎体骨折抑制効果と同等又はそれ以上であるとは即断できるものではなく、さらに、本件明細書全体をみても、本件発明における増悪椎体骨折抑制効果が新規椎体骨折抑制効果と同等又はそれ以上であるとする記載はなく、それを説明する作用機序についての技術的説明等もない。
そうすると、増悪椎体骨折について、予測できない顕著な効果として効果@を認めることはできない。
効果Aについて
増悪椎体骨折抑制の点について
前記イのとおり、甲57文献又は甲98文献に記載されたPTH連日投与のフォルテオ(テリパラチド)の相対リスク減少率との対比により本件発明の予想外の顕著な効果を裏付けることはできない。
・・・。以上のとおりであるから、増悪椎体骨折について、予測できない顕著な効果として効果Aを認めることはできない。
効果Bについて
「PTHの連日投与から想定されるBMD増加率に対する骨折相対リスクと対比して、BMD増加率が低くてもより低い骨折相対リスクが得られるとの効果が生ずるとして、これを本件発明の予測できない顕著な効果とする」被告の主張は、本件訴訟における原告の主張に対抗して、本件明細書とは異なる文献に記載された試験の結果と本件明細書の記載を被告が独自に組み合わせて予測したものであり、当然ながら、本件明細書には、PTHの連日投与から想定されるBMD増加率と骨折相対リスクとの関係を記載した部分は見当たらず、上記主張は、明細書に記載されていない効果を主張するものであって失当というほかない。
小括
以上のとおりであるから、相違点1及び2に係る本件発明1及び2の構成を想到することは容易と認められ、本件発明1及び2の効果も当業者において予測できない顕著なものとは認められないから、結局、相違点1及び2は当業者が容易に想到し得たものというべきであり、相違点1及び相違点2が容易に想到できないと認定した本件審決の判断には誤りがある。