審決取消請求事件(印刷された再帰反射シート) |
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解説 |
解説 審決取消請求事件において、進歩性なしと判断した特許庁審決が知財高裁で取り消された事例(相違点についての容易想到性の論理付け)。
(令和3年(行ケ)第10085号審決取消請求事件 判決言渡 令和4年10月31日)
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第1 事案の概要 |
原告は、発明の名称を「印刷された再帰反射シート」とする特許第4466883号(本件特許)の特許権者である。
一致点
相違点1−1
相違点1−2
相違点1−3
相違点1−4
相違点1−5
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第2 判決 |
1 特許庁が無効2020−800013号事件について令和3年6月16日にした審決を取り消す。
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第3 理由 |
本件発明は、三角錐型キューブコーナー再帰反射シートや蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シート等で色相を改善するために印刷層を設けた場合における耐候性や耐水性に劣るという従来技術の問題点を解決するために、
@反射素子層にポリカーボネート樹脂を用い、表面保護層に(メタ)アクリル樹脂を用い、
そうすると、AとBに関する相違点1−1と1−4のそれぞれについて容易想到性を検討するのではなく、一体の構成として検討されるべきである(なお、仮に、個別に検討したとしても、本件結論は左右されない。以下同じ。)。 以上を前提として検討するに、甲1発明の構成は、「プラスチック製の裏材10」と、「プラスチック裏材10の片面に再帰反射材料の第1の層12」、第1の層12の上に「再帰反射材料の第2の層14」、しっかりと固定された部分的に第2の層14に埋め込まれたガラス微小球16、カバー層18からなり、カバー層18の一部は白色に着色され、白色の着色は、カバー層18の片面又は両面に印刷されており、このカバー層18は、材料片の端部に隣接する部分を除いて組立体に取り付けられていない、 すなわち、カバー層18とガラス微小球16の間に空隙が生じている。 この印刷層とガラス微小球16の間の空隙は、空隙の空気とガラス微小球との界面で光を屈折させることにより再帰反射の光路を形成するもの(被告準備書面3頁。本件審決も同旨)である。 こうした再帰反射シートにおいては、再帰反射材料である第1の層、第2の層とその上に取り付けられた微小球、白色に一部が印刷されたカバー層が1つの技術的思想として、甲1発明の目的である、夜間に自動車のヘッドライトからの入射光を反射し、日光の下では白く見える再帰反射材となるものと理解することができる。 このように、甲1発明は、カバー層18及びその片面又は両面に複数の点で均一なパターンで白色に着色された印刷層と、微小球16の間には空隙があり、カバー層18は材料片の端部に隣接する部分を除いて組立体に取り付けられていない構成であって、空隙部は再帰反射の光路を形成するために設けられたものであるから、甲1発明に接した当業者は、印刷部と第2の層14の間の空隙部に水等が侵入することで印刷層にふくれ等が生じ再帰反射性が低下することによる課題を認識することができず、こうした課題を前提として甲3記載技術を適用する動機付けはない。 また、再帰反射材において再帰反射効率を高めることは周知の課題であり、キューブコーナー型再帰反射素子がマイクロ硝子球を用いたものよりも再帰反射効率が高いことが知られていたとしても、甲1発明におけるカバー層18とカバー層18の片面又は両面に複数の均一なパターンで白色に着色された印刷層は、ガラス微小球を用いた構成を前提として、夜間の再帰反射性を一定限度以上に不明瞭にしたり減衰させることなく、日光の下では白色に見えるように十分な白色を存在するように構成されたもの(1頁115〜123行)であるから、こうしたカバー層18と白色に着色された印刷層の構成をそのままとした上で、これと裏材10の間に存在する層構成のみを取り出し、甲3記載技術の三角錐型キューブコーナー再帰反射材、空気層及び結合材層からなる層構成に置き換える動機付けはない。 仮に、甲1発明の構成のうち「空隙部、ガラス微小球、第2の層14、第1の層12」を、甲3記載技術の構成のうち「結合材層、空気層、三角錐型反射素子層、保持体層」の構成を適用する動機付けがあるとしても、カバー層18が保持体層に接して構成することが可能な部材であるかにつき、それが可能であることを認めるに足りる証拠はない。 以上のとおり、甲1発明に甲3記載技術を適用する動機付けはなく、仮に動機付けがあるとしても、「保持体層と表面保護層の間に印刷層が保持体層と表面保護層に接して設置され」た構成(相違点1−1)には想到しない。 そうすると、当業者が、保持体層と表面保護層の間に印刷層が設置されることで生じる印刷層のフクレ等の課題を認識して独立した印刷領域の面積割合について検討する動機付けはないから相違点1-4の構成にも想到し得ない。 以上によれば、本件審決には、少なくとも相違点1−1、1−4の容易想到性の判断に誤りがあり、本件発明1は、甲1発明及び甲3記載技術等に基づいて当業者が容易に想到し得たとはいえないから、その他の点について判断するまでもなく、原告主張の取消事由1−1−2は理由がある。 |
第4 考察 |
進歩性なしと判断した特許庁審決が知財高裁で取り消された。本件発明と引用発明との間の相違点についての容易想到性の論理付けについて実務の参考になるところがあると思われるので紹介した。 以上
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