取消事由1−1(甲4発明の認定の誤り)について
甲4の記載等
甲4の記載及び、通常光下では黒色であった商品サンプルがフラッシュ光下では肌色様に見えることや弁論の全趣旨も併せ考慮すると、甲4に貼付された黒色の商品サンプルは、「黒色の再帰反射フィルム」であると認めるのが相当である。
また、甲4の2頁目(表紙を除く)における「従来の印刷手法に加え、溶剤及びUVインクジェットに対応しています」との記載は、甲4の黒色の再帰反射フィルムに溶剤インクジェット印刷を施すことが可能であることを意味するものと解され、溶剤インクジェット印刷が施されれば、黒色の再帰反射フィルムの上に印刷層が形成されることは明らかであるから、甲4には「溶剤インクジェット印刷を施すことにより印刷層を形成することができる黒色の再帰反射フィルム」が記載されているといえる。
そこで進んで、甲4に「溶剤インクジェット印刷を施すことにより透光性の印刷層を形成することができる黒色の再帰反射フィルム」が記載されているかにつき検討する。
印刷層の形成に関し、甲4には「従来の印刷手法に加え、溶剤及びUVインクジェットに対応しています」との記載があるのみであり、溶剤インクジェット印刷が非透光性のインクを用いたものに限られるとの記載又は示唆はみられない。
ここで、溶剤インクジェット印刷の意義等に関し、甲18(全日本印刷工業組合連合会(教育・労務委員会)編「印刷技術」(平成20年7月発行))等の各証拠における記載からすれば、本件出願日当時、溶剤インクジェット印刷においては、透光性(透明性)を有するCMYのインクが広く用いられていたものと認められるから、仮に、本件出願日当時、溶剤インクジェット印刷において非透光性のインクが用いられることがあったとしても、溶剤インクジェット印刷に対応しており、かつ、前記のとおり、溶剤インクジェット印刷が非透光性のインクを用いたものに限られるとの記載も示唆もみられない甲4の記載に接した当業者は、甲4は透光性を有するインクを用いた溶剤インクジェット印刷に対応しているものと容易に理解したといえる。
以上によると、甲4には「溶剤インクジェット印刷を施すことにより透光性の印刷層を形成することができる黒色の再帰反射フィルム」が記載されていると認められるから、甲4発明は、そのように認定するのが相当である。これと異なる本件審決の認定は誤りである。
以上のとおりであるから、取消事由1−1(甲4発明の認定の誤り)は理由がある。
取消事由1−2(一致点及び相違点の認定の誤り)について
前記のとおりの本件発明と前記のとおり認定した甲4発明とを対比すると、両者の一致点及び相違点は、次のとおりであると認められる。これと異なる本件審決の認定は誤りであり、取消事由1−2は理由がある。
(一致点1’)
「入射光をそのまま光源方向へ再帰反射する黒色の再帰反射材を備え、前記再帰反射材の表面に印刷により形成された透光性の印刷層を備えることができる表示媒体」
(相違点1’)
印刷層に関し、本件発明が「印刷により形成された図柄からなる透光性の印刷層」を備えるのに対し、甲4発明は、透光性の印刷層を備えることはできるものの、図柄の印刷を実際に施して「図柄からなる透光性の印刷層」を形成していない点
取消事由1−3(相違点についての判断の誤り)について
(1) 印刷により形成された透光性の印刷層を形成することについて
甲4発明は、「溶剤インクジェット印刷を施すことにより透光性の印刷層を形成することができる黒色の再帰反射フィルム」であるから、溶剤インクジェット印刷を施すことにより甲4発明に透光性の印刷層を形成することは、甲4発明において普通に想定されていた事柄であるといえる。したがって、本件出願日当時の当業者は、甲4発明自体から、これに溶剤インクジェット印刷を施すことにより透光性の印刷層を形成するとの構成に容易に想到し得たものと認めるのが相当である。
(2) 図柄からなる印刷層を形成することについて
甲4の記載によれば、甲4発明は、図柄からなる印刷層を形成することを想定していると認めることができる。
さらに、甲63(インターネット上の電子掲示板(uksignboards)への投稿記事(2011年2月15日))等の各証拠における記載から、黒色の再帰反射フィルムに文字、図柄等からなる印刷層を形成することは、本件出願日当時の周知技術であったと認められる。以上に加え、上記のとおり甲4発明自体が図柄からなる印刷層を形成することを想定していることも併せ考慮すると、本件出願日当時の当業者は、甲4発明及び上記周知技術に基づいて、甲4発明に図柄からなる印刷層を形成するとの構成に容易に想到し得たものと認めるのが相当である。
以上によると、本件出願日当時の当業者は、甲4発明及び周知技術に基づいて、相違点1’に係る本件発明の構成に容易に想到することができたと認めるのが相当である。取消事由1−3は理由がある。
以上の次第であり、取消事由1は全体として理由があることになるから、取消事由2−1ないし2−3について判断するまでもなく、原告の請求は理由がある。