<本件審決の認定>
本願発明と引用発明との間の一致点・相違点
審決が認定し、当事者間に争いのない本願発明と引用文献1(甲8=国際公開第2016/159316号)記載の発明(引用発明1)との間の一致点、相違点は以下のとおり。
(一致点)
銅に対する銀の添加量が0.2wt%〜15wt%である、銅銀合金体からなるコンタクトピン。
(相違点1)
本願発明の合金体は「銅と銀のみからなる二元銅銀合金体」であるのに対し、引用発明1の合金材料はNiを5wt%含むものである点。
<本件審決の認定>
本件審決は相違点1について次のように判断した
甲8(引用文献1)には、「Cuに対する添加元素として銀(Ag)やニッケル(Ni)を添加することで、導電性、硬度、耐酸化性、スズ(Sn)耐食性の向上を図った。」との記載(段落[0017])があり、「Agは導電性・耐酸化性に優れており、また、時効処理を行うことでCuに固溶していたAgが析出され硬度の上昇が期待できる。」(同[0018])、「NiはSn耐食性の向上・硬度上昇に効果がある。」(同[0019])として、銅に対して銀を添加した場合の効果とニッケルを添加した場合の効果がそれぞれ別に記載されている。このことに、技術常識Aを踏まえると、銅に対して銀又はニッケルを添加することによる効果はそれぞれ独立したものであって、必ずしも銀及びニッケルを併せて添加する必要がないことは容易に理解し得る。
さらに、本件周知技術も考慮すると、引用発明1のコンタクトプローブを、Sn耐食性が特に求められない検査対象(Snメッキ電極を使用しない回路など)へ用いる場合、ニッケルの添加を省略して「銅と銀のみからなる二元銅銀合金体」とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
※技術常識A:甲17(特開2000‐199042号公報。本件審決における引用文献6)に記載された事項に例示されるように、「Cuに対して、Agを含有する銅銀二元合金とすることにより、強度を高めること。」は、技術常識であると認められる。
本件周知技術:甲16(特開2004‐61265号公報。本件審決における引用文献5)に記載された事項に例示されるように、「コンタクトピンの材料として、銅銀二元合金を用いること。」は、周知の技術事項(本件周知技術)であると認められる。
<本件判決の判断>
取消事由2(相違点1の判断の誤り)について
引用発明1を含む甲8に記載された発明は、特に、「被膜を有しないSn耐食性に優れた合金材料、この合金材料からなるコンタクトプローブおよび接続端子を提供することを目的とする」ものである(甲8の段落[0006])ところ、銀の添加については「Sn耐食性」の向上については触れられていない(同[0018])一方で、ニッケルの添加は「Sn耐食性の向上・硬度上昇に効果がある」ことが明記されている(同[0019])。
そして、実施例においても、硬度等とともに「Sn耐食性」が独立の項目として評価され(同[0036])、甲8に係る発明の実施例には全てニッケルが添加され、いずれも「Sn耐食性」において「○」と評価されている(同[0038]及び[表1]。
なお、同[0003]及び[0047]等の記載のほか、同[0040]〜[0045]の比較例1〜6に対する評価に係る記載をみても、甲8に係る発明は、硬度とSn耐食性を含む複数の要請をいずれも満たすことを目的としたものであると認められる。
この点、比較例7のみにおいては、ニッケルの添加がされていないが、「Sn耐食性」において「×」と評価され、かつ、「Snはんだ等低硬度材向けのコンタクトプローブ用途として好ましくないといえる」と明記されている(同[0046]及び[表1])。
以上の点に照らすと、引用発明1においては、ニッケルの添加が課題解決のための必須の構成とされているというべきであり、引用発明1の「合金材料」について、ニッケルの添加を省略して銅銀二元合金とすることには、阻害要因があるというべきである。
そして、甲8の記載に照らしても、引用発明1の「合金材料」について、ニッケルの添加を省略して銅銀二元合金とすることの動機付けとなる記載は認められず、他にそのようにすることが当業者において容易想到であるというべき技術常識等も認められない。
したがって、引用発明1に基づいて、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることについて、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。
以上より、取消事由2は認められる。