相違点について
相違点1
相違点1は、「縦フランジ部の下部から内側方向に延びる段差部」が、本件発明1においては、縦フランジ部の下部から内側方向に「ほぼ水平に」延びる段差部であるのに対して、甲1発明1においては、縦フランジ部の下部から昇降窓ガラス側方向に「やや下方に」延びる段差部であるというものである。
甲1発明1のモールディングが取り付けられるドアパネルが、アウタパネルであることについては当事者間に争いがなく、甲1発明1の「昇降窓ガラス側方向」は、本件発明1の「内側方向」(車内側を指す。)と同じ方向を意味するものと認められるから、相違点1においては、段差部が「ほぼ水平」に延びるか「やや下方」に延びるかという点のみが問題となる。
そこで検討するに、本件明細書には、段差部が縦フランジ部の下部から内側方向に「ほぼ水平に」延びることの技術的意義についての記載はない。
また、本件発明は、端末の剛性に優れるベルトラインモールを提供するために、ドアフレームの表面に位置する部分は縦フランジ部を残して、水切りリップや引掛けフランジ部を切除できるようにし、モール本体部と縦フランジ部とで略C断面形状を形成しつつ断面剛性を確保したというものであり、ベルトラインモールの端末では、ドアフレームの表面に位置する部分は縦フランジ部を残して切除されるものであって、段差部も切除されるのであるから、段差部が「ほぼ水平に」に延びても「やや下方」に延びても、本件発明の作用効果に何ら影響するものではない。
そうすると、段差部が「ほぼ水平に」延びるものとすることについて何らかの技術的意義があるとは認められない。
そして、甲1発明1においても、段差部が縦フランジ部の下部から昇降窓ガラス側方向(内側方向)に「やや下方に」延びることに何らかの技術的意義があるとは認められず、甲1発明1において「やや下方に」延びる段差部を「ほぼ水平に」延びるように構成することは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないというべきである。
そうすると、甲2記載事項について検討するまでもなく、甲1発明1において段差部に設計的変更を加え、これを「ほぼ水平に」することは、当業者が容易に想到できたものと認めるのが相当である。
したがって、本件審決には、相違点1に係る容易想到性の判断に誤りがある。
相違点3
相違点3は、「前記ベルトラインモールはドアのパネルに装着され」に関して、本件発明1においては、「前記ドアガラス昇降部はモール本体部と引掛けフランジ部とでドアのアウタパネルの上縁部に挟持」装着されているのに対して、甲1発明1においては、「前記ベルトモールディングMは、車体側のドアパネルPに押込んで取付けられ」ている点というものであるが、甲1発明1の「ドアパネルP」はアウタパネルであり、モールディングが取り付けられている場所については本件発明1と甲1発明1において相違しないから、相違点3については、甲1発明1の「押込んで取り付けられ」が、本件発明1の「挟持」装着と相違するか否かが問題となる。
そこで検討するに、甲1の発明の詳細な説明の記載(甲1の1欄23行目〜2欄9行目)から、モールディングは、アウタパネルの上辺に嵌着係合されているものであるが、一部を切除した端末部(端部)についてはそのままでは嵌着係合することができないものであると認められる。
そして、甲1の3欄2〜10行目、第3図a、b、4欄11〜18行目の記載から、甲1発明1においては、端部についてはモールディング本体の一部を切欠くが、当該部分についてはアウタパネル(甲1の「車体のドア」「車体パネル」「車体側パネル」「ドアパネルP」)の上縁辺と嵌着係合することができないので、切欠いた部分のフランジ部にビス孔を形成して、アウタパネルにねじ止めにより固定するものとされているものと認められる。
そうすると、甲1発明1においては、モールディングは、端部以外の部分においては、アウタパネルの上辺に「嵌着係合」されているものであるが、モールディングがアウタパネルを挟むようにして取り付けられるものと容易に理解できるから、甲1発明1の「押込んで取り付けられ」は、本件発明1の「挟持」装着と実質的に同じように、モールディングがアウタパネルの上縁辺を挟むようにして取り付けられた状態を指すものと認めるのが相当である。
そうすると、相違点3は実質的な相違点ではない。
この点、本件審決は、甲1の第3図aについて、車体側パネル(ドアパネルP)は、モールディングMのリップ14、15に対峙する側においては、リップ14、15から離れる方向すなわち手前側にクランク状に屈曲しており、甲1発明1において、車体側パネル(ドアパネルP)にモールディングMを取り付けた状態において、車体側パネル(ドアパネルP)はモールディングMの手前側に位置するものと解されるとして、甲1発明1においては、ドアパネルPがモールディングに挟まれるものではなく、手前側に位置するものであり、モールディングMをネジ止めすることで取り付けられていると認定して、相違点3について容易想到ではないと判断し、被告も本件審決の上記認定が相当であると主張する。
しかしながら、甲1の各記載からは、モールディングは、端部以外の部分では、アウタパネルを挟むようにして取り付けられているものであって、ネジ止めすることで取り付けられているものではないと認められるから、本件審決の上記認定は甲1の記載に反するというほかない。
したがって、本件審決には、相違点3に係る判断に誤りがある。