<本件補正発明>
原告は取消事由1(本件特許発明1の進歩性判断の誤り)として、後述する取消事由1(1)、取消事由1(2)、取消事由1(3)を主張した。
<取消事由1(1)(甲1発明の認定の誤り)について>
原告は、甲1発明における「1つのベアリング」がクロスローラ軸受であり、本件決定が当該ベアリングについて具体的に特定されていないとしたことは誤りであると主張する。
しかし、本件決定が甲1発明として認定した改良型モータユニット(【0024】)のハウジングケース34(固定部材に相当)とサーキュラ・スプライン32a(出力部材に相当)の間に配置されている「1つのベアリング」がどのような軸受であるのかは、甲1の記載上、不明というほかない。
原告は、甲1の「従来型モータユニット」に関する記載として「減速機32としてシルクハット型のハーモニックドライブ(登録商標)減速機SHG‐17‐50を使用し」たとの記載があり(【0021】)、減速機SHGシリーズはいずれも1つのクロスローラのみにより主軸受を構成しているから(甲30、31)、改良型である甲1発明も同様にクロスローラ軸受を使用していると主張するが、甲1発明が従来型モータユニットと同じ減速機を使用しているかどうかは明らかでない。
ところで、被告が主張するとおり、甲1の図3の主軸受の中央には「円」の記載があるところ、軸受の技術分野において設計等で断面略図として記載する際には、玉軸受の玉を図中では「円」で示すのが一般的であり(乙1〜3)、クロスローラ軸受を表す場合には菱形が用いられていること(甲13、30)も認められる。
しかし、上記図3の主軸受の図示がこれを意識したものかどうかは判然とせず、これをもって甲1発明における「1つのベアリング」が玉軸受であるとまで断定することはできない。そうであっても、当該「1つのベアリング」がクロスローラ軸受であると即断できないことに変わりはない。
また、原告は、甲1の出願があった当時、アシスト装置である甲1発明に用いられる波動減速機の技術分野において、クロスローラ軸受又は一対の軸受により主軸受を構成することが一般的であったとも主張するが、この主張を裏付ける証拠はない。
よって、甲1発明に関し、主軸受である1つのベアリングについて具体的に特定されていないとする本件決定の認定に誤りはない。
<取消事由1(2)(本件特許発明1と甲1発明との相違点の認定の誤り)について>
上記のとおり、本件決定における甲1発明の認定に誤りはなく、甲1発明においては、本件特許発明1と異なり、主軸受である1つのベアリングについて具体的に特定されていないとする本件決定の相違点の認定も相当である。
原告は、「主軸受に関する構成を本件特許発明1と甲1発明との相違点とする上では、アシスト装置に用いられる減速機の主軸受に着目した前提となる構成A『(アシスト装置の)減速機は、・・・前記固定部材と前記出力部材の間に配置される主軸受と、を有し、』と、その主軸受の種類に関して規定した構成B1とを合わせたまとまりのある構成を相違点として認定すべきである。」と主張する。
この主張は、構成B1に係る相違点について判断するに当たり、当該相違点は構成Aが前提となっているという技術的コンテキストを踏まえた判断が必要という趣旨をいうものと理解される。よって、そのような趣旨の主張として、後記取消事由1(3)において、これを踏まえた判断をすることとする。
<取消事由1(3)(本件特許発明1と甲1発明との相違点についての判断の誤り)について>
原告は、甲1発明における「1つのベアリング」がクロスローラ軸受であることを前提に、本件決定がした容易想到性の判断の誤りを主張するが、前記のとおり本件決定における甲1発明の認定に誤りがない以上、原告の主張はその前提を欠く。
また、原告は、本件特許発明1の容易想到性を判断するに当たって考慮すべき当業者は、アシスト装置向けの減速機の技術分野に属する当業者とすべきであると主張する。
しかし、そうだとしても、甲1発明のアシスト装置に触れた当業者が、適切な軸受を選択するために、軸にかかる荷重の方向や大きさを計測し、その計測結果に基づいて、周知の軸受の選択肢の中から最適、安価な軸受に設計変更しようとすることは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないというべきである。このことは、原告の主張する当業者の対象いかんによって異なるものではない。
そもそも、甲1発明のアシスト装置は、両端を人体に取り付けて使用されるものであり(甲1)、産業用ロボットとは使用形態及び構造が大きく異なる。のみならず、アシスト装置において予測される動作に伴う負荷の程度を考えれば、片持式に先端部を支持する産業用ロボット(甲15の図2、甲26の図7、甲29の3頁「産業用ロボット」の例)に比較して、主軸受にかかる荷重が小さいことは構造上明らかである。産業用ロボット向けの減速機に関する技術常識がアシスト装置にそのまま妥当すると当業者が考える根拠はない。
原告は、前提となる構成Aを捨象して、アシスト装置用減速機の主軸受と無関係な単なる機械要素としての単列式転がり軸受が周知技術であること(乙1、2)を根拠に容易想到性の判断をするのは不当であるとの趣旨の主張をする。
しかし、本件決定の判断も、当裁判所の上記判断も、単なる機械要素としての単列式転がり軸受の周知性を根拠とするものではなく、アシスト装置用減速機と産業用ロボット用減速機の違いを踏まえて、アシスト用減速機においていかなる主軸受が選択されるかという点に着目した議論を述べているところであり、原告の主張する構成Aの前提(技術的コンテキスト)を十分踏まえたものである。
原告は、産業用ロボット向けの減速機の技術常識からすれば、耐荷重の低下により耐久性を損ないかねない改変をしようという動機付けは生まれない旨主張する。
しかし、アシスト装置用減速機が、産業用ロボット向けの減速機において要求されるような大きなラジアル荷重、アキシャル荷重及びモーメント荷重に対応しなければならないという技術常識を認めるに足りる証拠はなく、原告の主張は、乙7 等に関するものも含め、その前提を欠くものである。
よって、取消事由1に関する原告の主張(1)〜(3)は、いずれも採用することができない。