本件発明と甲11発明との間の相違点
本件発明と甲11発明とを対比すると、両者の間には、次の相違点Aが存在するものと認めるのが相当である。
(相違点A)
濾過工程について、本件発明においては、「0.3μm以上の孔サイズを有する第1の層と0.3μmより小さい孔サイズを有する第2の層とを含む親水性二重層ポリエーテルスルホン膜を使用して、濾過」する工程と特定されているのに対し、甲11発明においては、「バルクエマルジョンを窒素下で0.22μm膜に通して濾過し、大きな粒子を取り除いて、平均粒径が約150nm、1.2μm以上の粒子がml当たり0.2×106個程度であるMF59C.1アジュバントエマルジョンの50L規模のバルクを手に入れる工程、得られたアジュバントエマルジョンのバルクを0.22μm膜に通して滅菌濾過する工程」と特定されている点。
甲11記載の発明につき、上述したとおりに認定すべきであるから、本件発明と甲11記載の発明との間に本件審決が認定した相違点1が存在するとの主張は採用することができない。
相違点Aに係る本件発明の構成の容易想到性
周知技術の認定
丙4(甲15)(Sartorius社が2007年に発行した製品カタログ)の記載によると、本件製品(本件発明の要件を満たす親水性二重層PES濾過膜「Sartopore R 2」)は、孔サイズが0.45μmである予備濾過膜及び孔サイズが0.2μmである最終濾過膜からなる親水性異質二重層ポリエーテルスルホン膜を備えるものであると認められる。また、証拠及び弁論の全趣旨によると、本件製品は、本件優先日当時に市販されており、本件製品が備える上記の膜は、本件優先日当時の当業者に広く知られていたものと認められる(なお、参加人も、この点を特段争うものではない。)。したがって、本件製品の上記の膜を用いて濾過を行うことは、本件優先日当時の周知技術(本件周知技術)であったものと認めるのが相当である。
本件周知技術の引用発明への適用
相違点Aに係る本件発明の構成と本件周知技術とを比較すると、本件周知技術は、相違点Aに係る本件発明の構成に相当するものであるから、以下、本件優先日当時の当業者において、甲11発明に本件周知技術を適用し(本件適用)、相違点Aに係る本件発明の構成に容易に想到し得たか否かについて検討する。
本件適用に係る動機付けの有無
技術分野
本件周知技術は、甲11発明が属する技術分野を包む技術分野に属する技術であると認めるのが相当であり、甲11発明と本件周知技術とは、その属する技術分野を共通にするといえる。
甲11発明が有する課題
甲11には、本件適用を動機付けるような課題の記載はみられない。
しかしながら、証拠(甲20、甲65の記載)によれば、ワクチンアジュバントのエマルジョンの製造に用いられる濾過膜については、その品質を向上させるため、@細菌を効果的に保持すること、A総処理量が大きいこと及びB流速が妥当なものであることが求められているものと認められ、それのみならず、そもそもワクチンアジュバントのエマルジョンの製造に用いられる濾過膜において、上記@からBまでの要請が達成されることにより当該濾過膜の品質の向上につながることは、これらの要請の内容に照らし、本件優先日の当業者にとって自明であったというべきである。したがって、甲11発明には、これらの要請を達成するとの課題(本件課題)が内在しており、甲11発明に接した本件優先日当時の当業者は、甲11発明が本件課題を有していると認識したものと認めるのが相当である。
本件課題の解決手段
証拠(丙4、甲65の記載)及び弁論の全趣旨によると、本件製品が備える親水性異質二重層ポリエーテルスルホン膜をワクチンアジュバントのエマルジョンの製造(濾過)に用いることにより、本件課題をいずれも解決することができるものと認めるのが相当であり、本件優先日当時の当業者において、甲11発明に本件周知技術を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。
本件適用に係る阻害要因の有無
本件周知技術における予備濾過膜の孔サイズが0.45μmであることは、本件適用に係る阻害要因ではなく、その他、本件適用に係る阻害要因があるものと認めるに足りる証拠はない。
以上のとおりであるから、本件優先日当時の当業者は、甲11発明に本件周知技術を適用することにより、相違点Aに係る本件発明の構成に容易に想到し得たものと認めるのが相当である。
本件発明が奏する効果
本件明細書の実施例4の【表3】中の回収率の低いものとして比較対象となる膜の材質や孔サイズは本件明細書中では十分に開示されておらず、仮に事後的に甲36において示された材質や孔サイズを前提としたとしても、例えば、フィルタ2とフィルタ7を比較すると、同じ孔サイズの場合、最終フィルタの材質がPES(親水性二重層ポリエーテルスルホン膜)であるものよりもPVDF(PESではない親水性二重層フィルタ)であるものの方が回収率が高くなっているなど、これらのデータだけでは、顕著な回収率が本件発明に係る親水性二重層ポリエーテルスルホン膜の効果によるものであるとの証明がされているとはいえない。
それのみならず、証拠(丙4)の記載、本件製品の膜が95%閉塞するまでにおける総処理量が約90kgである旨のグラフ等によると、本件製品を用いて50L程度のエマルジョンを濾過した場合、膜の詰まりの程度が低く抑えられ、本件明細書に記載された程度の高い回収率を実現し得ることは、本件優先日当時の当業者にとって容易に理解し得たものと認めるのが相当である(なお、本件明細書の段落【0197】も、実施例4における低回収率の原因は膜の詰まりであるとしている。)。
以上によると、本件各要件を全て満たす親水性二重層ポリエーテルスルホン膜を使用した場合と当該膜を使用しない場合とを比較し、前者の場合に得られる本件効果が当業者において予測することができない顕著なものであったとする主張の妥当性には疑問がある上、参加人が主張する本件効果は、甲11発明に本件周知技術を組み合わせた構成(本件発明の構成)が奏するものとして本件優先日当時の当業者が予測することのできないものであったと認めることはできず、また、当該構成から当該当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著なものであったと認めることもできないというべきである。
以上のとおりであるから、本件発明は、本件優先日当時の当業者において甲11発明に基づき容易に発明をすることができたものであり、進歩性を欠くものである。これと異なる本件審決の判断は誤りである。