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 商標「」は、使用された結果、自他商品識別機能を具備すると判断された事例
(平成7年審判第2381号、平成11年8月11日審決、審決公報第2号)
 
1.本件商標
 本願商標は、上に表示した構成よりなり、平成4年6月15日に登録出願され、第5類「薬剤」を指定商品として出願されたものであり、その指定商品については当審において、平成11年6月22日付の手続補正書により「医科用薬剤」に補正されているものである。

2.原査定の拒絶の理由
 原査定は、「本願商標は、輪郭として普通に用いられる円の中に、ローマ文字「n」の一字を普通に用いられる方法で書してなるものであるから、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなるものと認める。したがって、本願商標は商標法第3条第1項第5号に該当する。」との理由で本願を拒絶したものである。

3.請求人の主張
 これに対して、請求人は、本願商標は、使用された結果、取引者・需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識できるものになっており、本願商標は商標法第3条第2項の要件を備えている旨主張して、甲第1号証乃至同第8号証(枝番を含む)を提出した。

4.当審の判断
 そこで検討するに、本願商標はありふれた円輪郭内にローマ文字「n」の一字を普通に用いられる方法で書してなるものであり、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標であって、商標法第3条第1項第5号に該当する商標というべきである。
 そこで本願商標が商標法第3条第2項の要件を備えているか否かについて検討する。
 甲第1号証及び同第2号証として提出された、本願商標が付された商品「薬剤」の包装材、同第3号証の本願商標が付された商品「薬剤」の商品カタログ、同第4号証(枝番含む)の薬剤包装材の納入業者の証明書、同第6号証の本願商標を使用した商品「薬剤」の「年度別販売実績表」及び同第7号証(枝番を含む)に係る医院・病院・診療所による証明書によれば、本願商標は主として医師が処方する薬剤(以下、「医科用薬剤」という)に付されて昭和62年以来継続して使用され続け、該薬剤が、全国の相当数の医院・病院・診療所との間で取り引きされている事実が認められるところである。
 また、甲第5号証の1として提出された「医療用医薬品識別ハンドブック'91及び'93」(株式会社薬業時報社発行)外の、医薬業界誌(甲第5号証の2乃至5)は、医薬品メーカー別に、医薬品毎の記号・符号が付された一覧表が掲載されているものであって、これらはいずれも「医科用薬剤」の内容を個別に識別するための識別表と認められるものであり、ここに本願商標と同一の標章が掲載され、これが、請求人の取り扱いに係る「医科用薬剤」を示す標識として使用されていることが認められるものである。そして、この一覧表には、他に当該標章と同一又は類似する標章は見出し得ず、本願商標は請求人の使用に係る商品を他者の商品と識別するための標識として使用され、かつ、機能しているといえるものである。
 尚、当審において職権をもって調査するも、請求人以外の者により、本願商標と同一又は類似する標章が本願の指定商品と同一又は類似する商品に使用されている事実は発見できなかった。
 また、甲第8号証(枝番を含む)は、本願商標の周知性に関する、商工会議所及び出版社の証明であり、前記の事実を補完するに足りる内容を有するといえるものである。
 以上、提出された各甲号証及び職権による調査を総合して検討すれば、本願商標は使用された結果、取引者・需要者間において、これが、請求人の取り扱いに係る商品「医科用薬剤」に使用する商標であるとの認識がなされるに至っていると認められるものである。
 したがって、本願商標は商標法第3条第1項第5号に該当するといえるものの、同法第3条第2項の要件を備えているといえるから、本願商標が商標法第3条第1項第5号に該当するとして拒絶することはできないものである。
 その他、本願を拒絶する理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所