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 商標「シェルパワー」は、外観・観念・称呼上構成全体をもって不可分一体のものと理解されるから、引用商標「shell」「シェル」が需要者、取引者間に広く認識されていたとしても、商品(肥料)の出所について混同を生じさせるおそれはないと判断された事例
(平成8年審判第1940号、平成12年4月28日審決、審決公報第12号)
 
1.本件商標
 本願商標は、「シェルパワー」の片仮名文字を横書してなり、第2類「肥料」を指定商品として、平成4年2月13日に登録出願されたものである。

2.原査定の理由
 原審において、登録異議の申立があった結果、「登録異議申立人(以下、「申立人」という。)『シェルインターナショナル ペトロリウム リミテッド』が、『shell』或いは『シェル』と略称され、世界的に著名な石油関連会社であることは一般によく知られているところであって、同時に申立人会社及び関連会社が使用する『shell』、『シェル』或いは『貝の図形』も、その取り扱いに係る商品を表示する商標として、需要者、取引者間において広く認識されているものであることは、顕著な事実であるということができる。
 ところで、本願商標は『シェルパワー』の文字よりなるものであるが、これが全体として一定の意味合いを有する成語として親しまれているものとも認められないので、『シェル』と『パワー』の2語の結合よりなるものとして認識される場合も決して少なくないものと判断するのが相当である。
 してみると、『shell』或いは『シェル』の著名性、今日の企業の多角経営化の傾向とを勘案すると、本願商標をその指定商品に使用するときは、該商品が恰も申立人又はその関連会社の取り扱いに係る商品であるかの如く、その商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるものと認める。
 したがって、本願商標は商標法4条1項15号に該当する。」旨認定して、本願を拒絶したものである。


3.当審の判断
 申立人会社及びその関連会社が使用する「shell」、「シェル」の文字が、本願商標の登録出願前より、我国において、その取り扱いに係る商品を表示する商標(以下、「引用商標」という。)として、需要者、取引者間において広く認識されていたと認め得るところである。
 しかしながら、本願商標は「シェルパワー」の文字を書してなるものであるところ、各構成文字は、同書同大で、同じ間隔をもって一連に表されており、その構成よりみて「シェル」の文字部分のみが独立して認識されるものとはいえないばかりでなく、該構成文字に相応して「シェルパワー」とよどみなく一連に称呼し得るものであるから、構成全体をもって、不可分一体のものと理解されるとみるのが相当である。
 さらに、本願の指定商品の業界において、「貝化石」がその原材料として使用されている事実が認められることより、本願商標の全体の文字からは、「貝の力」の如き意味合いを看取せしめるものともいえる。
 そうとすれば、本願商標は、引用商標とは、全く別異の商標として認識されるものというべきである。
 してみると、本願商標はその指定商品について使用しても、引用商標ないしは申立人を連想、想起させるようなことはなく、商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるものということはできない。
 したがって、本願商標を商標法4条1項15号に該当するものとして拒絶すべきでない。
 その他、本願について拒絶すべき理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所