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 商標「島崎藤村」は、明治・大正・昭和期の詩人・小説家を表示するが、構成自体が矯激、卑猥、差別的な文字等ではなく、これを指定商品に使用しても該詩人・小説家やその遺族の名誉を毀損したり、商取引の秩序をみだしたり、社会公共の利益・一般道徳観念に反したりするものでもない等と判断された事例
(平成9年審判第19954号、平成13年7月27日審決、審決公報第21号)
 
1.本件商標
 本願商標は、「島崎藤村」の文字を横書きしてなり、第30類「そば粉、そばのめん」を指定商品として、平成7年3月16日に登録出願されたものである。

2.原査定の拒絶の理由
 原査定において、『本願商標は「若菜集」「破戒」「夜明け前」などの作者で、著名な詩人・小説家であって、1943年に死亡したものの本願商標の登録出願時において、著名な「島崎藤村」の文字を書してなるところ、該詩人・小説家と無関係にある出願人がこれを商標として採択・使用することは、該詩人・小説家の名誉を毀損し、また、該詩人・小説家の名誉の毀損を介して遺族の名誉を毀損することにつながるものであるから、商取引の秩序をみだすおそれがあるものとみるのが相当である。したがって、本願商標は、商標法4条1項7号に該当する。』と認定、判断して、本願を拒絶したものである。

3.当審の判断
 本願商標は、上記の通り「島崎藤村」の文字よりなるものであって、島崎藤村は、詩集「若菜集」、小説「破戒」、「春」、「夜明け前」などの作品の著者であり、1943年に亡くなった明治・大正・昭和期の詩人・小説家である。
 してみると、本願商標の構成自体が矯激、卑猥、差別的な文字又は図形からなるものでないことも明らかである。また、本願商標を指定商品について使用することが、該詩人・小説家の名誉を毀損し、また、該詩人・小説家の名誉の毀損を介して遺族の名誉を毀損したり、商取引の秩序をみだすおそれがあるとは言い難く、まして、社会公共の利益・一般道徳観念に反するものではなく、さらに、他の法律によってその使用が禁止されているものとすべき事実も認められないものである。
 したがって、本願商標は商標法4条1項7号に該当するものではないから、本願商標を同規定に該当するとして拒絶した原査定は、取り消しを免れない。
 その他、本願を拒絶すべき理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所