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 商標「南部茜染」は、原査定の判断の根拠となった「原色染織大辞典」の「なんぶあかねぞめ」の記載内容が事実と相違するものと認められたため、「秋田県鹿角市花輪で生産される、茜を染料とした後染織物」の意味合いに通じるものではないから、一種の造語として自他商品識別機能を有すると判断された事例
(不服2000-10472、平成16年7月28日審決、審決公報第57号
 
1 本願商標
 本願商標は、「南部茜染」の文字を縦書きしてなり、平成11年6月7日に登録出願、指定商品については、同12年4月12日付け手続補正書により、第24類「織物(畳べり地を除く。),布製身の回り品,かや,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布,織物製壁掛け,織物製ブラインド,カーテン,テーブル掛け,どん帳」と補正されたものである。

2 原査定の理由の要旨
 原査定は、「本願商標は、指定商品との関係において、『秋田県鹿角市花輪で生産される、茜を染料とした後染織物』の意に通じる『南部茜染』の文字を普通に用いられる方法で書してなるから、本願商標をその指定商品に使用するときには、これに接する取引者、需要者は、その商品が『秋田県鹿角市花輪で生産される、茜を染料とした後染織物、あるいは、その織物を用いた商品』であることを表示したものと理解するに止まり、単に商品の品質、原材料を表示するにすぎないものと認める。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。」旨認定判断して本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は、前記したとおり、「南部茜染」の文字を書してなるものであるところ、原査定において上記認定判断の根拠となった「原色染織大辞典」(株式会社淡交社、昭和52年6月6日発行)の「なんぶあかねぞめ(南部茜染)」の項に記載されている「茜を染料とした後染織物。秋田県鹿角市花輪より産出。古代茜染めをそのまま継承する唯一の存在。花輪周辺に自生する錦織木の灰汁を媒染剤とし同じく自生する茜草を染料とする。(中略)明治以降、藩の保護がなくなり、化学染料の普及によって急速に衰退した。しかし、町民や技術を伝承する栗山家の努力によって辛うじて残存する。年産二十〜三十反。(後略)」との内容は、該辞典の発行元である株式会社淡交社の文化事業部担当者による前記栗山家が「南部茜染」という名称を使用したことはない旨の報告を内容とする手紙(甲第5号証)等により、事実と相違するものと認められるから、本願商標が「秋田県鹿角市花輪で生産される、茜を染料とした後染織物」の意に通じるものであるとは認定できない。
 そして、本願指定商品を取り扱う業界において、「南部茜染」の語がその商品の品質表示として普通に使用されている事実も見出せない。
 そうすると、本願商標は、特定の意味合いを有さない一種の造語よりなるものとして取引者、需要者に認識されると判断するのが相当である。
 したがって、本願商標は、これをその指定商品に使用しても、自他商品の識別力を有するものであるから、本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当するとして、本願を拒絶した原査定は妥当でなく、取り消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '05/2/28