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 商標「」は、一般の女性を対象とした投融資等を扱う銀行であるかの如く認識され、銀行としての実態等のない者による紛らわしい表示であるから、「銀行業」の営業について認可を受けているものとは認められない請求人(出願人)がその指定役務について使用する場合は、銀行法の趣旨に反することになるばかりでな<、恰も同法により設置の認可を受けている「銀行」によって提供される役務であるかの如く、一般世人をして誤信せしめ、金融制度に対する社会的信頼を失わせることにもなり、ひいては公の秩序を害するおそれがある、と判断された事例
(不服2002-14945、平成16年9月24日審決、審洪公報第61号)
 
1.本願商標
 本願商標は上掲の通りの構成よりなり、第35類「経営の診断及び指導」、第36類「資金の貸付け」及び第41類「知識の教授」を指定役務として、平成12年12月26日に登録出願されたものである。

2.原査定の拒絶の理由
 原査定は、「本願商標は、銀行法に基づいて設立された銀行であるかのように認識される『女性市民バンク』の文字よりなるものであるが、銀行業務の許可を受けているとは認められない出願人が、本願商標を商標として採択使用することは、金融制度に対する社会的信頼を失わせ、ひいては公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがあるものと認める。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3.当審の判断
 本願商標は、上掲の通り、構成する描線にデザインを施して、文字に陰影をつけて「女性市民バンク」と一連に書してなるものであるから、これに接する需要者、取引者は、漢字で書された「女性市民」の語と片仮名で書された外来語「バンク」の複数の語句が組み合わされた構成よりなるものと認識、把握するのが自然である。
 そして、その構成中の「女性」の文字は性別を表す語で、「女子、婦人」等の意味を、また、「市民」の文字は「市の住民、公民」等の意味をそれぞれ有する語であて、両語を組み合わせると女性一般を表した語として認識されるというを相当とする。
 また、続く「バンク」の文字は、我が国における外国語の普及程度を考慮すれば、「銀行」の意味を有する英語「bank」の日本語読みとして広く知られ、例えば、「オンラインバンク、ネットバンク、メガバンク」等のように銀行であることを示す文字として使用されている実情がある。
 してみれば、本願商標は、広く女性一般を表す「女性市民」の語と、「銀行」を表す「バンク」の語とを組み合わせたものと認められ、全体として「女性市民のための銀行」程度の意味合いがごく自然に生ずるものであり、例えば一般の女性を対象とした投融資等を扱う銀行であるかの如く認識されるとみるのが相当である。
 ところで、銀行法は、信用秩序維持、預金者保護、金融の円滑化、国民経済の健全な発展に資することを目的とし、同法第6条第2項及び同第3項において、銀行でないものがその商号中に銀行であることを示す文字を使用することを禁じ、銀行の商号の変更に当たっては、内閣総理大臣の認可が必要である旨を規定している。その趣旨は、銀行業務の公共性に鑑み、銀行として実態の無い者が「銀行」と紛らわしい表示を用い、これによって、一般国民に不測の損害を及ぼすことのないようにしたものであり、この趣旨は商取引の秩序、さらには公の秩序に関する事柄として十分に尊重されるべきものと解される。
 また、商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標は、商標登録を受けることができない」旨の規定は、商標の構成自体がきょう激、卑わい、若しくは差別的な印象を与えるような文字、図形等から構成されている場合だけでなく、商標自体はこのようなものでなくても、これを指定商品又は指定役務に使用することが社会公共の利益・社会の一般的道徳観念に反する場合や一般に国際信義に反する商標である場合にその登録を拒絶すべきことを定めていると解されているところである。
 そうとすれば、正規の手続によって銀行法に基づく「銀行業」の営業について認可を受けている者とは認められない請求人(出願人)が、「バンク」の文字を含む本願商標を採択使用することは、それに接する一般公衆に対し、その標章の表示が銀行法第4条に基づき、内閣総理大臣の免許を受けて銀行業を営む者の名称を表示したものと誤解させ、上記銀行法の趣旨に反することになるばかりでなく、また、これをその指定役務に使用する場合は、恰も同法により設置の認可を受けている「銀行」によって提供される役務であるかの如く、一般世人をして誤信せしめ、金融制度に対する社会的信頼を失わせることにもなり、ひいては公の秩序を害するおそれがあるものといわざるを得ない。
 尚、請求人は、過去の登録された商標の例を挙げ、本願商標の登録適格性を主張しているが、過去にされた審査例等は具体的、個別的な判断が示されているものであって、必ずしも、確立された統一的な基準によっているものとはいえず、仮にその中に矛盾や誤りあるとしても、具体的事案の判断においては、過去の審査例等の一部の判断に拘束されることなく検討されるべきものであるから、請求人の主張は採用することができない。
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当であって取り消すべき限りでない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '05/10/10