最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 商標「香 風/シャン フォン」は、引用商標「」とは、「コウフウ」の称呼を共通にするとしても外観及び観念が明らかに異なるから、全体として非類似と判断された事例
(不服2002-19815、平成16年12月8日審決、審決公報第61号)
 
1.本願商標
 本願商標は、「香 風」の漢字と「シャン フォン」の片仮名文字を二段に書してなり、第29類、第30類及び第42類に属する願書記載の通りの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成14年1月23日に登録出願されたものである。そして、指定商品及び指定役務については、原審における同年9月5日付手続補正書により、第29類「肉製品,加工水産物(「かつお節・寒天・削り節・食用魚粉・とろろ昆布・干しのり・干しひじき・干しわかめ・焼きのり」を除く。),加工野莱及び施工果実,加工卵」、第30類「穀物の加工品」及び第43類「中華料理その他の東洋料理を主とする飲食物の提供」に補正されたものである。

2.引用商標
 原査定において、本願の拒絶理由に引用した登録第3019625号商標(以下「引用商標」という。)は、上掲の通りの構成よりなり、平成4年9月7日に登録出願、第42類「アルコール飲料を主とする飲食物の提供,茶・コーヒー・ココア・清涼飲料又は果実飲料を主とする飲食物の提供」を指定役務として、同7年1月31日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

3.当審の判断
 本願商標は、上掲の通り「香 風」の漢字と「シャン フォン」の片仮名文字を二段に書してなるところこれよりは、上段の漢字部分の読みを特定したものとみられる下段の片仮名文字部分から生ずる「シャンフォン」の称呼以外に、上段に大きく表された「香 風」の漢字部分から該文字に相応して「コウフウ」又は「カフウ」の称呼をも生ずるというのが相当である。
 これに対して、引用商標は、上掲の通りの構成よりなるところ、上部に表された欧文字部分から「ラウンジコーフー」の称呼を生ずるほかに、構成中の筆字風の文字で大きく表された「洸風」の漢字部分から「コウフウ」の称呼をも生ずるものである。
 そこで、本願商標と引用商標の類否について検討すると、本願商標中の「香風」の文字部分は、「よいにおい、かおり」(「広辞苑第五版」株式会社岩波書店発行)等を意味する「香」の文字と「風」の文字とを組み合わせたものであるのに対して、引用商標中の大きく表された「洸風」の漢字部分は、「水が広く広がるさま」(同「広辞苑」)等を意味する「洸」の文字と「風」の文字とを組み合わせたものであるから、両商標は、観念において明らかに相違するものである。
 そうすると、本願商標と引用商標とは、「コウフウ」の称呼を共通にするものであるとしても、前記の通り外観及び観念が明らかに異なるものであるから、全体として誤認、混同を生じない、非類似の商標であるというのが相当である。
 してみれば、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当でなく取消しを免れない。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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B. 商標「松林庵」は、伝西行史跡の名称として広く一般に知られているとはいい難く、特定の文化財を想起させるものと認めることばできないから、商標法第4条第1項第7号に該当しない、と判断された事例
(不服2002-21088、平成16年11月4日審決、審決公報第61号)
 
1.本願商標
 本願商標は、別掲の通り「松林庵」の文字を縦書きしてなり、第30類「菓子及びパン」を指定商品として、平成14年2月13日に登録出願されたものである。

2.原査定の拒絶理由
 原査定は、「本願商標は、恵那市の文化財で三郷町野井に存する伝西行史跡の名称『松林庵』の文字を書してなるから、これを前記文化財と関係のない他人が商標として採択使用することは、社会の一般的道徳観念に反し穏当でない。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定判断し、本願を拒絶したものである。

3.当審の判断
 本願商標は、上掲の通り「松林庵」の文字を書してなるものであるが、該文字について当審において職権により調査したところ、「岐阜県恵那市の文化財で東野山本に存する伝西行史跡の名称」を「松林庵」と称していることが認められるとしても、この伝西行史跡「松林庵」は、広く一般に知られているとは言い難いものであるから、本願商標が原審において説示した特定の文化財を想起させるものと認めることはできないものである。
 また、他にそのようなものとして把握されるというべき格別の事情は見出せないものであるから、本願商標は、特定の意味を有しない一種の造語と認識し、把握されるとみるのが相当である。
 そして、本願商標は、その構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字からなるものでなく、また、その指定商品について使用することが社会公共の利益に反し、又は、社会の一般的道徳観念に反するものとは認められない。さらに、他の法律によって、その使用が禁止されているものとも認められない。
 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するということはできないから、前記理由をもって本願を拒絶した原査定は妥当ではなく、その理由をもって本願を拒絶すべきものとすることはできない。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '05/10/10