最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 商標「中央アルプス」は、指定商品「清涼飲料(鉱泉水を除く)等」の品質、原材料を表示するものではなく、自他商品の識別機能を有すると判断された事例
(不服2002-20493、平成17年1月17日審決、審決公報第63号)
 
1.本願商標
 本願商標は、「中央アルプス」の文字を標準文字により書してなり、第32類に属する願書記載の商品を指定商品として、平成13年12月11日に登録出願、その後、指定商品については、当審において同14年10月22日付手続補正書により、「清涼飲料(鉱泉水を除く)、果実飲料、飲料用野菜ジュース、乳清飲料」と補正されたものである。

2.原査定の拒絶の理由
 これに対し、原査定は「本願商標は、木曽山脈の別称である『中央アルプス』の文字を普通に用いられる方法で表してなるものであるところ、近時、各地山岳地帯の湧水がミネラルウォーターとして販売されている実情よりすれば、これをその指定商品に使用するときは、該商品が中央アルプス地帯の湧水を用いたものであることを理解させるものであって、単に商品の品質、原材料を表示するに過きない。したがって、本願商標は商標法第3条第1項第3号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3.当審の判断
 本願商標は、「中央アルプス」の文字を書してなるものであるところ、「中央アルプス」が木曽山脈の別称であるとしても、補正後の指定商品との関係において、商品の品質、原材料を表示するものとは認め難いものであり、また、補正後の指定商品を取り扱う業界において、商品の品質、原材料を表示するものとして普通に使用されている事実も見出すことができない。
 してみれば、本願商標は、商品の品質、原材料を表示するものではなく、自他商品の識別標識としての機能を十分に果たし得るものといわざるを得ない。
 したがって、本願商標は商標法第3条第1項第3号に該当するものとしてその出願を拒絶すべきでない。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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B. 商標「南アルプス」は、指定商品「清涼飲料(『ミネラルウォーター』を除く)等」の原材料に使用されている水の産地、品貿を表示したものと認識するに止まり、自他商品の識別機能を有し得ない、と判断された事例
(不服2002-12170、平成16年12月13日審決、審決公報第63号)
 
1.本件商標登録出願
 本件商標登録出願は、商標(以下「本願商標」という。)の構成を「南アルプス」の文字(標準文字による)とし、第32類「清涼飲料、果実飲料、飲料用野莱ジュース、乳清飲料、ビール製造用ホップエキス」を指定商品として、平成12年6月9日に登録出願されたものである。
 そして、指定商品については、平成13年6月6日付手続補正書により、「清涼飲料(『ミネラルウォーター』を除く。)、果実飲料、飲料用野菜ジュース、乳清飲料、ビール製造用ホップエキス」と補正されているものである。


2.原査定の拒絶の理由
 原査定は、「本願商標は、山梨県と静岡県にまたがる赤石山脈の別称である『南アルプス』の文字を書してなるところ、近年、各地の湧出したミネラルウォーターが販売されているから、これを本願指定商品に使用するときは、南アルプス地域で湧出されたミネラルウォーター或いはそれを使用した商品であると理解されるに止まり、自他商品の識別標識としての機能を有しないものであり、本願商標は商標法第3条第1項第3号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3.当審の判断
 本願商標の構成は、前記したものであるところ、該文字からは、山梨県、長野県、静岡県の境にまたがる赤石山脈の別称である「南アルプス」を想起させるものである。
 しかして、当該「南アルプス」周辺は、鉱泉水(ミネラルウォーター)が湧出することで知られている地域である。
 そして、伏流水として湧出する鉱泉水には、カルシウムやマグネシウムなどを成分とするミネラルが含まれており、この種の水は茶やコーヒーを入れる際に適しているとされ、また、清涼飲料や果汁飲料には、ミネラルを含んだ商品も販売されているところである。
 してみれば、本願商標をその指定商品に使用するときは、取引者、需要者に、それが南アルプス地域で湧出したミネラルウォーターを使用した商品であると認識、理解されるに過ぎず、自他商品識別標識を表示したものとは認識されないというのが相当である。
 そうとすれば、本願商標は、その指定商品の原材料に使用されている水の産地、品質を表示したものと認識、理解するに止まり、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものといわざるを得ない。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取り消すべきではない。
 よって結論の通り審決する。
 なお、本願商標を構成する「南アルプス」の文字は山梨県の西側、南アルプス山麓に位置する八田村、白根町、芦安村、若草町、櫛形町、甲西町の4町2村が合併して、平成15年4月1日に市となった「南アルプス市」の略称をも認識させるものであって、該市は、全国で唯一のカタカナによる市名として知られているものであり、本願の拒絶の理由として言及されてはいないものの、この点からも本願商標は、商品の産地・販売地を表示するものであり、自他商品の識別機能を有しないものである。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '05/12/13