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 商標「」は、通貨安定のための国際協力機関である国際決済銀行(Bank for International Settlements)の略称を表示する標章「BIS」とその文字綴りを同じくするものであって、経済産業大臣が指定するものと類似するから、商標法第4条第1項第3号に該当する、と判断された事例
(不服2004-1996、平成17年7月28日審決、審決公報第71号)
 
1.本願商標
 本願商標は、上掲の通りの構成よりなり、第38類「移動体電話による通信、テレックスによる通信、電子計算機端末による通信、電報による通信、電話による通信、ファクシミリによる通信、無線呼出し、テレビジョン放送、有線テレビジョン放送、ラジオ放送、報道をする者に対するニュースの提供、電話機・ファクシミリその他の通信機器の賃与」を指定役務として、平成15年5月14日に登録出願されたものである。

2.原査定の拒絶の理由
 原査定は、「本願商標は、『国際決済銀行』(Bank for International Settlements)の略称を表示する標章であって、通商産業大臣が指定する標章『BIS』(平成6年4月26日号外通商産業省告示第267号)とその文字綴りを同じくするものであるから、通商産業大臣が指定する前記標章と同一又は類似のものと認める。したがって、本願商標は商標法第4条第1項第3号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3.当審の判断
 商標法第4条第1項第3号は、「国際連合その他の国際機関を表示する標章であって経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の商標は、商標登録を受けることができない。」とするものであって、工業所有権の保護に関する国際間の条約であるパリ条約第6条の3(1)(b)の規定の趣旨を受けて設けられたものである。しかして、同条約の規定の目的とするところは、同盟国が加盟している政府間国際機関の紋章、旗章その他の記章、略称及び名称については、これを工業所有権の保護対象から除外することにより、当該機関の主権を尊重し、その権利と尊厳を維持・確保することにあり、前記法条の規定はこれと同趣旨をもって、一私人に独占させることにより当該国際機関等の尊厳を害し、公益上支障のあるような標章を商標として登録しない旨を定めたものと解される。
 なお、原審の拒絶の理由中「通商産業大臣」及び「平成6年4月26日号外通商産業省告示第267号」と記載があるのは、平成13年1月6日施行の中央省庁等改革基本法により「通商産業大臣」が「経済産業大臣」に改められたこと及び「平成14年2月20日経済産業省告示第83号」に基づき「平成6年通商産業省告示第267号」が廃止されたことを受け、その旨訂正し、以下、審理する。
 そこで、本願商標を見るに、本願商標は上掲した通り籠字状(外縁を黒輸郭で中を白抜き)の文字を表した構成よりなるところ、その構成中の1番目に位置する文字の左上方起筆部分において、垂直方向と水平方向の交差部分には多少の隙間を有し、水平方向の線が左に多少長く突き出ており、全体が図案化されているとしても、いかなる文字が表されているのか判読できないほど図案化されているとはいい難く、一見して欧文字の「B」を図案化してなるものと容易に読み得るものである。
 また、構成各文字が、それぞれ統一性のある籠字状の書体で表されているとしても、それらの書体をもって構成文字が判読不可能というわけではなく、全体として「BIS」の欧文字を表したものであると容易に認識できるものといわざるを得ない。
 しかして、「BIS」の文字は、商標法(昭和34年法律第127号)第4条第1項第3号の規定に基づき、経済産業大臣が「国際決済銀行の標章指定」(平成14年2月20日経済産業省告示第83号)として指定する標章の一、すなわち、通貨安定のための国際協力機関である国際決済銀行(Bank for International Settlements)の略称を表示する標章「BIS」とその文字綴りを同じくするものである。
 してみれば、特殊な書体を用いてなるとしても、看者をして「BIS」の欧文字を表したものと認識される以上、本願商標は経済産業大臣が指定する前記標章と類似する商標というほかはなく、したがって、本願商標を商標法第4条第1項第3号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当であって、取り消すことはできない。
 なお、請求人は、請求の理由において、本願商標の指定役務と、国際決済銀行の関連役務とは、非類似の関係にある旨主張しているが、たとえ、本願商標の指定役務が前記国際機関と直接関係を有しないものであるとしても、本件の場合、本願商標と指定された標章そのものとの類否を検討すれば足りるのであって、本条項の適用の可否は出所の混同可能性を基準に判断すべきものでないことは、前述の国際条約の精神に照らし相当であるから、本件については、前記認定、判断を相当とするものであって、この点について述べる請求人の主張は妥当でなく、採用の限りではない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '06/8/23