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 優先権主張を伴い標準文字よりなる商標「ACCUVET」は、その優先権主張の基礎とされた最初の出願商標「ACCUVET」が、ごく普通に用いられる欧文字の活字体で表されているものと認められるものであるから、当該最初の出願商標とは実質的に同一の範囲内の商標として、優先権の主張が認められた結果、引用商標「アキュベット」の登録出願日以前に登録出願されたものとみなされ、商標法第4条第1項第11号に該当しない、と判断された事例
(不服2005-4905、平成18年11月28日審決、審決公報第85号)
 
1 本願商標
 本願商標は、「ACCUVET」の欧文字を標準文字で表してなり、第10類及び第41類に属する願書記載の通りの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、2001(平成13)年7月9日アメリカ合衆国においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張して、平成14年1月9日に登録出願されたものである。
 そして、指定商品については、当審において、同18年11月20日付手続補正書により、第10類「レーザーその他の光線(ライト)を基礎とする獣医科用の機械器具及びその附属品,レーザーその他の光線(ライト)を基礎とする外科・内科・歯科その他の医療又は美容外科用の医療用機械器具,その他の医療用機械器具,人工鼓膜用材料,補綴充てん用材料(歯科用のものを除く。)」及び第11類「レーザーその他の光線(ライト)を基礎とするエステティックサロン用の機械器具」に補正されたものである。


2 原査定の拒絶の理由の要旨
(1)引用商標
 原査定において、本願の拒絶の理由に引用した登録第4650044号商標は、「アキュベット」の片仮名文字を標準文字で表してなり、平成13年9月28日登録出願、第10類「医療用機械器具」を指定商品として、同15年3月7日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。同じく、登録第4650045号商標は、「AccuVet」の欧文字を標準文字で表わしてなり、平成13年9月28日登録出願、第10類「医療用機械器具」を指定商品として、同15年3月7日に設定登録され、現に有効に存続しているものである(以下、両商標をまとめて「引用商標」という。)。

(2)指定商品・指定役務は、商標とともに権利範囲を定めるものであるから、その内容及び範囲は明確でなければならないところ、本願商標の指定商品・指定役務のうち「レーザーその他の光線(ライト)を基礎とする外科・内科・歯科その他の医療又はエステティックに使用するための機械器具」は、その内容及び範囲を明確に指定したものとは認められない。そのため、本願商標は、政令で定める商品及び役務の区分に従って第10類の商品・役務を指定したものと認めることもできないから、商標法第6条第1項及び第2項の要件を具備しない。


3 当審において通知した審尋
 平成18年7月13日付で、「本願商品の指定商品中の第10類『レーザーその他の光線(ライト)を基礎とする外科・内科・歯科その他の医療又はエステティックに使用するための機械器具』が、第10類『医療用機械器具及び医療用品』又は第11類『美容院用又は理髪店用の機械器具(いすを除く。)』の範囲内の商品であることを明らかにするため、上記指定商品を補正する旨の書面を提出されたい。」旨の審尋を通知した。

4 当審の判断
 本願商標は、パリ条約に基づく優先権を伴う商標登録出願であるところ、原審においては、本願の商標の態様が、平成14年4月2日付提出の優先権証明書に示されている態様と相違することを理由として、本願についての優先権を認めなかったものである。
 そこで、提出された優先権証明書を徴するに、2001(平成13)年7月9日にアメリカ合衆国においてした最初の出願商標(以下、「最初の出願商標」という。)は、「ACCUVET」の欧文字を、格別図案化しているものではなく、普通に用いられる活字体で表されているものと認められるものであるから、たとえ、本願商標が、特許庁長官により指定された標準文字よりなるものであったとしても、最初の出願商標と本願商標とは実質的に同一の範囲内の商標というのが相当である。
 してみれば、本願商標は、登録出願と同時に提出された優先権証明書に基づき、優先権の主張を認めるというのが相当である。
 そして、本願商標は、2001(平成13)年7月9日アメリカ合衆国にした商標登録出願に基づき、パリ条約第4条の規定により優先権を主張して、平成14年1月9日に登録出願されたものであるから、本願商標の優先権の主張の基礎とした出願の日は、同13年7月9日である。
 他方、商標登録原簿に徴すれば、引用商標は、いずれもその登録出願日は平成13年9月28日である。
 そうすると、本願商標は、上記の通り優先権の主張が認められた結果、引用商標の登録出願日以前に登録出願されたものとみなされるものであるから、本願商標と引用商標とはその類否について判断するまでもなく、商標法第4条第1項第11号の「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品(指定役務)又はこれらに類似する商品(役務)について使用をするもの」には該当しないといわざるを得ない。
 したがって、本願商標の優先権主張を不適法なものであるとし、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願を拒絶した原査定は妥当なものではなく、取消しを免れない。
 また、本願商標は、前記3の審尋に対して、その指定商品が前記1の通り補正された結果、指定商品及び指定役務について、その内容・範囲が明確なものとなっている。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '07/11/04