最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 商標「東京JAPAN 税理士法人」は、自然人の出願に係るものであり、全体として、税理士法人の名称を表したものと認識されるものであるため、これをその指定役務に使用することは、「税理士法人」に関わるものであるかのように誤認させ、その信頼を裏切ることとなり、著しく社会的妥当性を欠くから、商標法第4条第1項第7号に該当する、と判断された事例
(不服2004-16986、平成19年5月8日審決、審決公報第92号)
 
1.本願商標
 本願商標は、「東京JAPAN 税理士法人」の文字を横書きしてなり、第35類「税務書類の作成」及び第36類「税務代理、税務相談」を指定役務として、平成15年4月21日に登録出願されたものである。

2.原査定の拒絶の理由
 原査定は、「本願商標は、その構成中に『税理士法人』の文字を有するものであるから、このような商標を一個人である出願人が採択・使用することは、需要者に恰も税理士法人であるかのように誤認を与え、公の秩序を乱す虞があるものと認める。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3.当審の判断
 商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害する虞のある商標」には、商標の構成自体が、きょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合及び商標の構成自体がそうでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合が含まれ、さらに、他の法律によって、その使用等が禁止されている商標も含むと解されるものである。
 本願商標は、前記した通り、「東京JAPAN 税理士法人」の文字を書してなるものであり、全体として、税理士法人の名称を表したものと認識されるものである。
 ところで、税理士法をみると、「第5章の2 税理士法人」として、「第48条の2 税理士は、この章の定めるところにより、税理士法人(税理士業務を組織的に行うことを目的として、税理士が共同して設立した法人をいう。以下、同じ。)を設立することができる。」、「第48条の3 税理士法人は、その名称中に税理士法人という文字を使用しなければならない。」「第48条の7 税理士法人は、政令で定めるところにより、登記しなければならない。」及び「第48条の18第2項 税理士法人は前項の規定による場合のほか、社員が1人になり、そのなった日から引き続き6月間その社員が2人以上にならなかった場合においても、その6月を経過した時に解散する。」と定められている。
 そうしてみると、請求人(出願人)は、前記法人ではないこと明らかな自然人であるから、全体として税理士法人の名称を表すものと認識される本願商標を、その指定役務に使用することは、「税理士法人」に関わるものであるかのように誤認させ、その信頼を裏切ることとなるから、著しく社会的妥当性を欠くものと判断するのが相当である。
 そうとすると、本願商標は公の秩序又は善良の風俗を害する虞のある商標といわなければならない。
 また、当審において、「請求人(出願人)は、本件審判請求書の請求の理由において、平成16年10月1日付けで本願商標である『東京JAPAN 税理士法人』を設立する予定の準備を再開し、また、本願については、商標権を取得と同時に上記税理士法人に譲渡をするので、公の秩序を乱す虞はない旨述べている。しかしながら、商標法第4条第1項第7号の判断時期は、査定時又は審決時であって、本願出願人を上記法人に名義変更しない限りは、上記拒絶の理由を免れない。」旨の審尋を行ったところ、請求人(出願人)からは何等の応答もなく、また、税理士法人については、上記した税理士法第48条の7の通り、登記することが前提となっているので、請求人の主張は、採用することができない。
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当であって、取り消すことはできない。
 よって、結論の通り、審決する。


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B. 商標「東電化」は、構成全体をもって一体不可分の一種の造語と認識され、「東電」の文字部分のみが独立して認識されるとみるべき特段の事情も見出せないから、「東京電力株式会社」の略称を含む商標とはいい得ず、商標法第4条第1項第8号に該当しない、と判断された事例
(不服2006-16951、平成19年6月26日審決、審決公報第92号)
 
1.本願商標
 本願商標は、「東電化」の文字を標準文字で表してなり、第9類に属する願書記載の通りの商品を指定商品として、平成17年6月23日に登録出願されたものである。

2.原査定の拒絶の理由(要旨)
 原査定は、「本願商標は、東京都千代田区所在の東京電力株式会社の著名な略称である『東電』の文字を含むものであり、かつ、その者の承諾を得ているものとは認められない。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3.当審の判断
 本願商標は、「東電化」の文字を標準文字で書してなるところ、構成各文字は同じ書体、同じ大きさで、等間隔に外観上纏まり良く一体的に表現されているものであって、構成全体をもって一体不可分のものと看取し認識されるものというのが自然である。
 また、これより生ずると認められる「トウデンカ」の呼称も、よどみなく一連に称呼できるものであり、他に構成中の「東電」の文字部分のみが独立して認識されるとみるべき特段の事情も見出せない。
 そうすると、本願商標は、構成全体として特定の観念を有しない一種の造語よりなるものというのが相当であって、原審説示のようにその構成中の「東電」の文字部分に着目して、これを「東京電力株式会社」の略称であると直ちに認識するとまではいうことができない。
 してみれば、本願商標は他人の著名な略称を含む商標とはいい得ないものである。
 したがって、本願商標を商標法第4条第1項第8号に該当するとした原告定の拒絶の理由は妥当でなく、取消しを免れない。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '08/02/04