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 商標「」は、興和株式会社が取り扱う胃腸薬として我国の取引者、需要者間に広く認識されている著名な商標「キャベジン」と称呼が同一であり、しかも、商品「胃腸薬」と本願指定役務「飲食物の提供」とは少なからぬ関係を有するから、これを当該指定役務に使用するときは、恰も同社の提供する役務又は同社と何らかの関係を有する者の役務であるかの如く役務の出所について混同を生じさせる虞がある、と判断された事例
(不服2006-22316、平成19年10月3日審決、審決公報第97号)
 
1 本願商標
 本願商標は、上掲の通りの文字を書してなり、第43類に属する願書記載の通りの役務を指定役務として、平成17年6月23日に登録出願され、その後、同18年4月3日付の手続補正書により、第43類「ジンギスカン料理を主とする飲食物の提供」に補正されたものである。

2 原査定の拒絶の理由の要点
 原査定は、「本願商標は、「東京都中央区日本橋本町3−4−14所在の興和株式会社が薬剤などに使用して需要者間に広く認識されている商標『キャベジン』と同一視される平仮名文字『きゃべじん』を書してなるものであるから、これをその指定役務に使用するときは、あたかも同社の提供する役務又は同社と何らかの関係を有する者の役務であるかの如く役務の出所について混同を生じさせる虞があるものといわなければならない。したがって、本願商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は、上掲の通り「きゃべじん」の平仮名文字を表してなるものである。
 ところで、興和株式会社(本社:愛知県名古屋市中区錦3−6−29所在)の代表的な医薬品の一つである胃腸薬「キャベジンコーワ」は、「キャベジン」と略されて、新聞において全国的に宣伝、広告され、インターネットにおいても普通に使用されているところである。
 上記した実情は、以下のような新聞記事情報及びインターネット情報からも裏付けられる(但し、(1)、(3)〜(5)、(7)、(8)、(10)は省略した。)。
(2) 2005年4月19日付の化学工業日報の3頁には、「佐藤製薬など3社、H2ブロッカーのスイッチOTCを発売」の見出しの下、「興和新薬は年間百二十億円を売り上げる胃腸薬のナンバーワンブランド「キャベジン」を保有しており、今回「アルタットA」の追加で、胃腸薬製品のラインアップを強化」との記載がある。
(6) 2002年10月3日付の化学工業日報の8頁には、「大衆薬工業協会、12月11日を「胃腸の日」に決定」の見出しの下、「同協会加盟者(九十一社)のうち、五十社が胃腸薬を手掛けており、市場規模は七百三十億円(店頭売りベース、昨年度)で約一一%減、興和の「キャベジン」(シェア一八%)、大正製薬の「大正漢方胃腸薬」(一二%)、太田胃散の「太田胃散」(一〇%弱)がベストスリー。」との記載がある。
(9) 1992年4月14日付の流通サ−ビス新聞の18頁には、「クローズアップ/胃腸薬−市場、着実な伸び。ヤング層にターゲット」の見出しの下、「興和から出されている「キャベジンコーワ錠」は脂肪食の取り過ぎをはじめ、グルメ時代に照準を合おせた総合胃腸薬。」との記載がある。
 以上よりすると、「キャベジン」は2002年の時点では、「胃腸薬としての市場シェア第1位(18%)」(上記新聞記事(6))及び2005年の時点では、「興和新薬は年間百二十億円を売り上げる胃腸薬のナンバーワンブランド「キャベジン」を保有」(上記新聞記事(2))からも明らかなように本願商標の出願時は勿論、出願時以前より現在においても、興和株式会社が取り扱う胃腸薬として、我国の取引者、需要者間に広く認識されている著名な商標ということができる。
 そして、本願商標は、「きゃべじん]の平仮名文字よりなるところ、その構成文字に相応して「キャベジン」の称呼が生じるものであって、興和株式会社の著名な商標「キャベジン」とその称呼が同一であり、平仮名文字と片仮名文字の違いがあるとしても、称呼上類似の商標といわなければならない。
 また、本願商標の使用役務は、「飲食物の提供」のところ、上記新聞記事(9)により「キャベジン」は、脂肪食の取り過ぎをはじめ、グルメ時代に照準を合わせた総合胃腸薬であり、一般に胃腸薬は、食後の胃のもたれやむかつき、胃重、食べ過ぎ、飲み過ぎにその効能を発揮するものである等を考え合わせれば、その需要者において、相当な範囲で同じ需要者を含んでいるということができ、「胃腸薬」と「飲食物の提供」とは少なからぬ関係を有する商品・役務といえるものである。
 そうとすれば、興和株式会社の「キャベジン」が、胃腸薬として取引者、需要者において広く認識されていることは上記の通りであるから、本願商標は、たとえ、平仮名文字であるとしても、これに接する一般需要者は、興和株式会社の著名な胃腸薬である「キャベジン」を想起し、同社が提供する役務と認識し、または、同社と何らかの関係を有する者の役務であるかのごとく、役務の出所について混同を生ずる虞があるものといわなければならない。
 なお、請求人は興和株式会社が薬剤などに使用して需要者に広く認識されている商標は、「キャベジンコーワ」であり、キャベジンではない旨、また、製薬会社である興和株式会社とは、飲食物の提供という役務では、広義の混同も生じない旨主張しているが、該商品を「キャベジン」と略して、取引者、需要者に広く認識されていること、及び飲食物の提供と胃腸薬との関連は上記の通りであるから、この主張は採用できない。
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第15号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当であって、取り消すことはできない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '08/11/24