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 商標「」は、その構成中にアメリカ合衆国の国旗と類似の図形を顕著に有するから、商標法第4条第1項第1号に該当に該当する、と判断された事例
(不服2007-2079、平成19年11月13日審決、審決公報第101号)
 
1 本願商標
 本願商標は、上掲の通りの構成よりなり、第8類「手動工具、手動利器、ピンセット、組ひも機(手持ち工具に当たるものに限る。)、くわ、鋤、レーキ(手特ち工具に当たるものに限る。)、靴製造用靴型(手持ち工具に当たるものに限る。)、電気カミソリ及び電気バリカン、エッグスライサー(電気式のものを除く。)、かつお節削り器、角砂糖挟み、缶切、くるみ割り器(貴金属製のものを除く。)、スプーン、チーズスライサー(電気式のものを除く。)、ピザカッター(電気式のものを除く。)、フォーク、アイロン(電気式のものを除く。)、糸通し器、チャコ削り器、五徳、十能、暖炉用ふいご(手特ち工具に当たるものに限る。)、火消しつぼ、火ばし、護身棒、殺虫剤用噴霧器(手持ち工具に当たるものに限る。)、ひげそり用具入れ、ペディキュアセット、まつ毛カール器、マニキュアセット、水中ナイフ、水中ナイフ保持具、ピッケル、パレットナイフ」を指定商品として、平成17年12月8日に登録出願されたものである。

2 原査定の拒絶理由の要点
 原査定は、「本願商標はその構成中にアメリカ合衆国の国旗と類似の図形を顕著に有するものと認める。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第1号に該当する。」旨認定、判断して本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は、上掲の通り、首にスカーフを巻いた亀の頭にヘルメットを装着し、該亀の口にナットと思しきものを銜え、ヘルメットの横の部分に国旗と思しき図形を描いてなるところ、そのヘルメットの横の部分に顕著に描かれた図形(以下、「本願図形部分」という。)は、やや波形状に描かれているものの、左上の白抜きの点を囲んだ部分及びストライプの模様を配してなるもので、これらにより構成される本願図形部分は、アメリカ合衆国の国旗と基本的構成を同じくするものと認められる。
 そして、本願図形部分は、アメリカ合衆国の国旗である星条旗をデザイン化したものであると容易に理解されるものであって、星条旗と酷似した印象を連想、想起せしめるものというのが相当である。
 してみると、本願商標を一私人である請求人が私的独占使用を目的として採択することは、アメリカ合衆国の尊厳、ひいては国際間の信義則を保つ観点から穏当でないものといわざるを得ない。
 尚、請求人は、商標法第4条第1項第1号に該当するためには、「外国の国旗の図形を顕著に有する」ところ、本願商標はこれに該当しないこと、及び我国における登録例をもって、本願商標が登録されるべきである旨主張しているが、商標を構成する図形と国旗に配色等多少の違いがあるとしても、構成上の特徴を共通にするなどにより、離隔的に観察した場合において互いに相紛れる虞があるときは、両者は類似するものと解するのが相当である。
 これを本願図形部分についてみると、前記認定の通りアメリカ合衆国の国旗の基本的特徴を備えているものであり、両者を子細に対比するときは、多少の差異があるとしても、離隔的な観察において微差というべく、両者は相紛れる虞が十分あるとみるべきであって、アメリカ合衆国の国旗に類似する図形と判断するのが相当である。
 加えて、ヘルメットや帽子等にステッカーやマーク等を貼り付けたり、刺繍をしてアピールをすることは一般的に知られた事実であり、本願図形部分はヘルメットの横に顕著に表示していることから、これに接する取引者、需要者は、アメリカ合衆国の国旗を連想、想起、認識させるものというべきである。そして、請求人も本願図形部分をアメリカ合衆国の国旗のイメージを表した旨を自認しているところである。
 また、商標法第4条第1項第1号の解釈に関し審査基準を掲げ、本願商標について、外国の国旗の図形を顕著に有するか否かを検討すべきである旨主張にいるが、本願商標は前記認定の通り、アメリカ合衆国の国旗と類似の図形を顕著に有してなるものであり、これを一私人が私権として独占し、自己の取引において商品に使用することは、特段の事情がない限り、当該国家の威信に関わり、尊厳性を言する虞があるものとみるのが相当というべきである。
 さらに、請求人は、いくつかの登録例を挙げて本願商標の登録適格性を主張しているが、これが直ちに前記の判断を覆すに足りるものではないことは明らかであり、本件の判断に影響を及ぼすものでもない。
 したがって、請求人のこれらの主張はいずれも採用できず、本願商標がアメリカ合衆国の国旗とその外観及び観念(星条旗)が類似するものというべきであって、本願商標を商標法第4条第1項第1号に該当するとして、本願を拒絶した原査定は妥当であり、取り消すことはできない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '09/01/05