最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 商標「家族想」は、引用商標「」とは「カゾクソウ」の称呼を共通にするとしても、外観及び漢字の字義の相違等によって取引者に与える印象、記憶等を総合して全体的に考察すると、役務の出所について互いに誤認混同を生じさせる虞はない、と判断された事例
(不服2008-7922、平成20年9月3日審決、審決公報第106号)
 
1 本願商標
 本願商標は、「家族想」の漢字を標準文字で書してなり、第45類「葬儀の執行,葬儀のための施設の提供」を指定役務として、平政19年4月6日に登録出願されたものである。

2 原査定の引用商標
 原査定において、本願の拒絶の理由に引用された登録第4518572号商標(以下、「引用商標」という。)は、上掲の通り、「かぞくそう」の平仮名文字及び「花族葬」の漢字を二段に併記してなり、平成12年7月21日に登録出願、第42類「葬儀の執行」を指定役務として、平成13年11月2日に設定登録されたものである。

3 当審の判断
 本願商標は、「家族想」の文字よりなるところ、その構成文字に相応して「カゾクソウ」又は「カゾクオモイ」の称呼を生じ、「家族を思うこと」程の観念を生ずるものとみるのが相当である。
 他方、引用商標は、上掲の通り、「かぞくそう」及び「花族葬」の文字からなるところ、上段に書された「かぞくそう」の平仮名文字が、下段に書された漢字の読みを特定したものと無理なく判断し得るものであるから、これより「カゾクソウ」の称呼を生ずるものとみるのが相当であって、かつ、何らの観念も想起させない造語といえるものである。
 そうすると、両商標は、「カゾクソウ」の称呼を共通にするものである。
 ところで、最高裁昭和39年(行ツ)第110号判決によれば、「商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生じる虞があるか否かによって決すべきであり、それには、そのような商品に使用された商標が、その外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。」旨判示されている。
 そこで、これを本件についてみるに本願商標と引用商標の外観は、それぞれ前記の通りの構成よりなるものであるから、外観上、明らかな差異を有するものである。
 また、観念については、本願商標が「家族を想うこと」程の観念を直ちに把握し得るものであるのに対し、引用商標は、特定の意味合いを有しない造語というべきであるから、観念上、比較することができないものである。
 してみれば、本願商標と引用商標とは、たとえ「カゾクソウ」の称呼を共通にするとしても、両商標は外観及び漢字の有する字義の相違等により明らかな差異を有しており、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合に全体的に考察すると、両商標を同一又は類似の役務に使用した場合においても、役務の出所について誤認混同を生じさせる虞はないというべきである。
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当ではなく、取り消しを免れない。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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B. 商標「」は、欧文字と4本の細い横線とで纏まり良く一体的に表わされ、特異な構成態様からなるものであるから、ありふれた氏のロ−マ字表記により普通に用いられる方法で表したものではない、と判断された事例
(不服2008-5074、平成20年9月18日審決、審決公報第106号)
 
1 本願商標
 本願商標は、上掲の通りの構成からなり、第8類に属する願書記載の通りの商品を指定商品として、平成19年2月2日に登録出願されたものである。

2 原査定の拒絶理由の要旨
 原査定は、「本願商標は、ありふれた氏と認められる『松尾』のローマ文字表記である『MATSUO』の文字と当該文字の下部に4本の横線を表して、いまだ普通に用いられる方法の域を脱しない程度に書してなるに過ぎないものと認める。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第4号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は、前記1の通りの構成からなるところ、「MATSUO」の欧文字が我が国のありふれた氏の一つである「松尾」をローマ字表記したものであることは容易に理解されるものである。
 しかしながら、本願商標は、該欧文字を単に白抜きのゴシック体で表したものではなく、「MATSUO」の欧文字をゴシック体の籠字風に表し、薄墨色の色彩を施した上に、文字のおよそ三分の一程度の位置に、各文字の間を交互に貫くような4本の細い線を表してなるものであるから、該欧文字部分と4本の細い横線は、視覚上纏まり良く一体的に表してなる特徴を有する固有の商標とみるのが相当である。
 そして、このような文字のデザイン手法からなる商標が本願商標の指定商品を取り扱う業界において、取引上普通に用いられているとは言えないものであり、これを本願の指定商品に使用したときには、その特異な構成態様から十分自他商品の識別標識としての機能を発揮するとみるのが相当である。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第4号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当なものではなく取り消しを免れない。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '09/04/23