最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 商標「」は、その指定役務「医薬品・化粧品又は食品の試験・検査・調査又は研究」に使用した場合、これに接した取引者、需要者が、本件商標中の「OMEGA」の文字部分を申立人の著名な略称として認識し把握することはないから、他人の著名な略称を含む商標に該当しない、と判断された事例
(異議2008-900028、平成20年8月22日決定、審決公報第106号)
 
1 本願商標
 本件登録第5089697号商標(以下、「本件商標」という。)は、上掲の通りの構成よりなり、平成18年5月9日に登録出願、第42類「医薬品・化粧品又は食品の試験・検査・調査又は研究」を指定役務として、同19年11月9日に設定登録されたものである。

2 本件登録異議の申立ての理由
 本件登録異議申立人(以下「申立人」という。)は、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証を提出した。
 申立人(オメガ・エス アー(オメガ・アーゲー)(オメガ・リミテッド))は、世界的に著名な、時計、装飾品、化粧品等の製造・販売会社である。
 申立人の正式名称である「OMEGA SA(OMEGA AG)(OMEGA LTD)」は、申立人の著名な名称であり、「OMEGA」又は「オメガ」は、申立人の著名な略称である。
 本件商標は、申立人の著名な略称である「OMEGA」及び「Ω」を含むものであるから、商標法第4項第1項第8号に該当する。
 したがって、本件商標の登録は、取り消されるべきである。


3 当審の判断
 (1) 本件商標は上掲の通り、黒く塗りつぶした横長長方形内に白抜きで「OMEGA」の欧文字及び「study」の欧文字を二段に書し、さらに、当該「OMEGA」の文字に重なるようにギリシャ語アルファベット最後の文字「Ω」をやや右傾斜に配してなるものである。
 しかして、「OMEGA」の文字及び「study」の文字は、その大きさに二倍程度の相違があるとしても、外観上纏まり良く表されている。
 また、「OMEGA study」より生ずると認められる「オメガスタディ」の称呼も、格別冗長というべきものでなく、淀みなく一連に称呼し得るものである。
 そうすると、「OMEGA study」の文字は、その構成文字全体をもって一体不可分の造語よりなるものと認識し把握されるとみるのが相当である。
 また、「OMEGA」及び「オメガ」が、申立人の業務に係る商品「時計」のみ商標として、取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認められるとしても、「OMEGA」及び「オメガ」の語は、申立人の創造に係る造語ではなく、我国においては、「ギリシャ語アルファベットの最終文字」としてもよく知られている。
 さらに本件商標の指定役務「医薬品・化粧品又は食品の試験・検査・調査又は研究」と申立人の業務に係る商品「時計」とは、密接な関係にあるとは言えない。
 以上の点を合わせ考慮すれば、本件商標をその指定役務に使用した場合、これに接した取引者、需要者が、本件商標中の「OMEGA」の文字部分を申立人の著名な略称として認識し把握することはないというのが相当である。
 また、「Ω」の文字はギリシャ語アルファベットの一つであって、名称とも略称ともいうべきものではない。
 そうとすれば、本件商標は、他人の著名な略称を含む商標に該当するものというべきではない。
 (2) したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものではないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきものとする。
 よって、結論の通り決定する。


〔戻る〕


B. 商標「」は、著名な女優であり、数多くのテレビドラマや映画に出演している女優「田中好子」の欧文字表記であって、その承諾を得たものとは認められないから、商標法第4条第1項第8号に該当する、と判断された事例
(不服2007-28953、平成20年8月27日審決、審決公報第107号)
 
1 本願商標
 本願商標は、上掲の通りの構成よりなり、第14類、第16類及び第28類に属する願書記載の通りの商品を指定商品として、平成18年11月14日に登録出願されたものである。そして、願書記載の指定商品については、原審における同19年8月27日付手続補正書により、第14類、第16類及び第28類に属する商品に補正されたものである。

2 原審の拒絶理由
 本願商標は、キャンディーズのメンバーで歌手デビューし、女優の芸名としても著名な「田中好子」の欧文字表記である「Tanaka yoshiko」の文字(多少の図案化を施してあるものの、いまだ普通に用いられる域を脱していない)よりなるものであり、かつ、その者の承諾を得たものとは認められない。したがって、本願商標は商標法第4条第1項第8号に該当する。

3 当審の判断
 本願商標は、上掲の通りの構成からなるところ、近時、レタリング技術の普及に件い、商標や広告等において看者の注意を惹くための視覚的効果として、構成文字にレタリングを施すことは、ごく普通に行われているのが実情であることからすれば、本願商標は「Tanaka yoshiko」の文字を表したものと容易に理解し得るものである。
 そうすると、本願商標は現在も活躍する著名な女優であり、数多くのテレビドラマや映画に出演している「田中好子」の欧文字表記であって、また、その者の承諾を得たものとは認められない。
 してみれば、本願商標は他人の著名な芸名からなる商標であり、かつ、前記他人の承諾を得ているとは認められないものであるから、商標法第4条第1項第8号に該当し、これを登録することができない。
 よって、結論の通り審決する。


〔戻る〕
鈴木正次特許事務所

最終更新日 '10/02/25