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 商標「」は、先頭及び2番目の文字が多少レタリングされているけれども、通貨安定のための国際協力機関である国際決済銀行の略称を表示する標章「BPI」の文字と、大文字と小文字の差はあるとしても、その綴りを同じくし、経済産業大臣が指定するもの(平成15年6月13日経済産業省告示第219号)と同一又は類似するものと認められるから、商標法第4条第1項第3号に該当する、と判断された事例
(不服2008-14151、平成21年3月25日審決、審決公報第115号)
 
1 本願商標
 本願商標は、上掲に示す通りの構成よりなり、第40類の「金属の加工,セラミックの加工・精密機器・産業機器の加工・組立・製造に関するコンサルティング,コンピュータ関連部品の加工・組立,水底用ミシンの部品の加工・組立,繊維機械器具の部品の加工・組立,電化製品の部品の加工・組立,工作機械の部品の加工・組立,事務用機器の部品の加工・組立,自動車用及び二輪自動車用のエンジンの部品の加工・組立,船舶の内燃機関用の部品の加工・組立,電子機器の部品の加工・組立,おもちゃ及びその他の遊具並びにその部品の加工・組立,自動マージャン卓・スロットマシン・遊戯用メダル支払機及びその他の遊戯用器具並びにその部品の加工・組立,生ごみ処理機及びその部品の加工・組立,マルチメディアキオスク端末及びその部品の加工・組立」を指定役務として、平成19年2月26日に登緑出願されたものである。

2 原査定の拒絶の理由の要点
 原査定は、「本願商標は、国際決済銀行を表示する標章であって、経済産業大臣が指定するもの(平成15年6月13日経済産業省告示第219号)と同一又は類似のものと認める。したがって、本願商標は商標法第4条第1項第3号に該当する」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 商標法第4条第1項第3号は、「国際連合その他の国際機関を表示する標章であって経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の商標は、商標登録を受けることができない。」とするものであって、工業所有権の保護に関する国際間の条約であるパリ条約第6条の3(1)(b)の規定の趣旨を受けて設けられたものである。
 そして、同条約の規定の目的とするところは、同盟国が加盟している政府間国際機関の紋章、旗章その他の記章、略称及び名称については、これと同一又は類似の標章を工業所有権の保護対象から除外することにより、当該機関の主権を尊重し、その権利と尊厳を維持・確保することにあり、前記法条の規定はこれと同趣旨をもって、一私人に独占させることにより当該国際機関の尊厳性を害し、公益上支障のあるような標章は、登録しない旨を定めたものと解される。
 そこで検討するに、本願商標は、上掲の通り、先頭及び2番目の文字が多少レタリングされているとしても、この程度のレタリングは、今日普通に行われている範囲内のものであり、欧文字の小文字である「bpi」を表したものと容易に理解、認識されるものである。
 そして、該文字は、商標法第4条第1項第3号の規定に基づき、経済産業大臣が「国際決済銀行の標章指定」(平成15年6月13日経済産業省告示第219号)として指定する標章の一、すなわち、通貨安定のための国際協力機関である国際決済銀行の略称を表示する標章「BPI」の文字と、大文字と小文字の差はあるとしても、その綴りを同じくするものである。
 してみれば、本願商標は、経済産業大臣が指定した前記標章と類似する商標であるというほかはなく、したがって、本願商標を商標法第4条第1項第3号に該当するとした原査定は、妥当であって、取り消すことはできない。
 なお、請求人は、請求の理由において、「本願商標は、上掲の通り、いかなる文字・事物・事象を表したものであるかを全く把握し得ない抽象的な幾何図形からなるものである。」旨主張するが、本願商標については、前記認定の通り、いまだ欧文字の小文字「bpi」であると容易に認識できるものであるから、請求人のこの主張は採用することができない。
 また、請求人は、過去の審決例を挙げ、「本願商標は国際決済銀行の略称とは非類似と判断されるべきである。」旨主張するが、請求人が引用する審決例は、本願商標とは商標の具体的構成等において事案を異にするものであって、それらを本件の類似判断の基準とするのは必ずしも適切でなく、したがって、この点について述べる請求人の主張は採用することができない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '10/03/10