最近の注目審決・判決を紹介します。
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1 本願商標 |
本願商標は、別掲に示す通りの構成からなり、第43類「飲食物の提供」を指定役務として、平成18年12月27日に登録出願されたものである。
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2 原査定の拒絶の理由 |
原査定は、「本願商標中『(七輪焼)お魚くわえたどら猫』の文字は、国民的アニメ番組『サザエさん』のオープニングテーマ『サザエさん』の歌詞の冒頭部分『お魚くわえたどら猫』と同一又は類似であり、このようなものを当該オープニングテーマの作詞家、作曲家等と何ら関係のない一私人である出願人が商標として採択使用することは穏当でない。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。
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3 当審の判断 |
(1)商標法第4条第1項第7号について 商標法第4条第1項第7号に規定する「公の秩序又は善良の風俗を害する虞がある商標」には、「社会の一般的道徳観念に反するような場合」も含まれるものと解されているが、上記の「社会の一般的道徳観念に反する場合」には、「模倣又は剽窃などにより、公正な取引秩序を乱す虞がある場合」も含まれるというべきである。 (2)「サザエさん」のオープニングテーマ曲と本願商標について テレビアニメ「サザエさん」は、1969年からフジテレビで放送が始まった全国ネットの国民的な人気番組である。該番組と同タイトルのオープニングテーマ曲「サザエさん」(作詞:林春生、作曲・編曲:筒美京平、歌:宇野ゆう子)の歌詞の冒頭部分(以下、「テーマ曲の歌詞」という。)「お魚くわえたどら猫」は、だれもがよく知るフレーズとして、幅広い層の視聴者に親しまれ、周知・著名となっている。 一方、本願商標中の「お魚くわえたどら猫」の文字部分は、上記テーマ曲の歌詞「お魚くわえたどら猫」のフレーズとは、称呼及び観念を共通にし、実質上同一というべきものである。また、該文字部分は「魚をくわえている猫」ではなく、「お魚くわえたどら猫」からなるものであり、つまり「魚を」の部分を「お魚」と表し、「くわえている猫」の部分を「くわえたどら猫」と表していることから判断しても、該文字部分が「サザエさん」のテーマ曲の歌詞のフレーズと偶然一致したものとは認めがたい。むしろ、「サザエさん」の上記テーマ曲の歌詞を知り得て、該文字部分を採択したものと推認できる。 してみると、請求人はテレビアニメ「サザエさん」のテーマ曲の歌詞のフレーズを剽窃し、その顧客吸引力に便乗(フリーライド)して、顧客を誘引することを目的として、本願商標を登録出願したものというべきである。 したがって、テーマ曲の歌詞のフレーズと実質上同一と認められる「お魚くわえたどら猫」の文字を、その作詞家及び関係者と何ら関係のない請求人が、その指定役務について登録、使用することは、社会の一般的道徳観念に反するものであるから、社会的妥当性を欠き、公正であるべき商取引の秩序を乱す虞があるものと言わなければならない。 (3)結び したがって、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとした原査定は、妥当であって、取り消すことはできない。 よって、結論の通り審決する。 |