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 商標「」は、郵便局記号「」とは十分区別し得るなどのため、その指定商品に使用しても社会公共の利益に反せず、社会の一般的道徳観念にも反しないから、商標法第4条第1項第7号に該当しない、と判断された事例
(不服2007-33414、平成22年1月29日審決、審決公報第123号)
 
1 本願商標
 本願商標は、上掲の通りの構成からなり、第6類「水道管、その他の建築用又は構築用の金属製専用材料等」を指定商品として、平成18年7月7日に登録出願されたものである。

2 原査定の拒絶の理由
 原査定は、「本願商標は、国土地理院が定める地図記号中、郵便局記号(上掲)と同一と認められ、郵便局記号は広く一般に使用され、極めて公共性の高いものであるから、これを一私人である出願人が商標として採択することは穏当でない。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
(1)商標法第4条第1項第7号について
 本願商標は、その構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような構成でないことは明らかであるから、本願商標をその指定商品に使用することが、社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するか否かについて、検討する。

(2)本願商標の構成等について
 請求人は、鋳鉄管において請求人の旧名称の一部である「久保田」の「久」の文字を○で囲った標章(以下「使用標章」という。)を原型として遅くとも明治43年以来、継続的に使用していたが、昭和47年に本願商標を採択した後は現在までその表示態様のまま使用している。また、本願商標の指定商品「水道管」等の需要者は水道管を取り扱う土木業者や建設業者の専門家に限られ、本願商標を使用する請求人商品のシェアは、概ね60%〜70%を占める状況であったことが認められる。
 本願商標は、上掲の通り、肉太の円輪郭内にこれと同じ太さからなる「〒」状図形を、円輪郭に内接することなく、左斜め方向に約45度傾けて配した構成からなり、一見して、自他部分の占める割合が圧倒的に多い印象であり、特定の称呼及び観念は生じないものである。

(3)郵便局記号の構成等について
 郵便局記号は、国土地理院発行の地形図に使われる地図記号の一であって、肉太の円輪郭内に、これと同じ太さからなる郵便記号「〒」を内接するように配した構成からなる。該記号が地図上で郵便局を表す地図記号として使用されていることは、広く一般に知られているから、「郵便局を表す地図記号(マーク)」という観念及びそれに準じた称呼が生じ得るものと認められる。
 郵便局記号が採択されたのは、大正6年であるのに対し、請求人は、本願商標の原型となった使用標章を郵便局記号が採択される以前の明治43年から使用していた。

(4)本願商標と郵便局記号との類否について
 本願商標及び郵便局記号は、前記で認定した通りの構成からなる。
 そこで、本願商標と郵便局記号の外観を比較すると、両者は共にやや肉太の円輪郭内にその円輪郭と同し太さで「〒」状図形又は郵便局記号「〒」を配置したものであって、その構成要素が見る方向(角度)により全体として近似した印象を与える場合があるとしても、本願商標は、円輪郭内の「〒」状図形が円輪郭に内接することなく、左斜め方向に約45度傾き、かつ、当該円輪郭内は、一見し白地部分の占める割合が圧倒的に多い印象であるのに対し、郵便局記号は、円輪郭内の郵便記号「〒」が傾くことなく円輪郭に内接するものであり、かつ、当該円輪郭内の自他部分も格別多いという印象でもない。また、両者の観念及び称呼については、比較することはできない。
 そうとすると、本願商標と郵便局記号とは、外観については、その類似の程度は高いものとは言えず、観念及び称呼については比較し得ないものであるから、これらを総合して全体的に考察すると、両者は十分区別し得るものというべきである。

(5)本願商標をその指定商品に使用することが、社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するか否かについて
 本願商標は、「久」の文字に出来し採択された標章であり、請求人は、郵便局記号の使用開始以前より本願商標の原型となった使用標章を使用していたこと、また、水道管に使用する鋳鉄管分野における請求人商品のシェアは、概ね60%〜70%であったこと等、さらに、本願商標と郵便局記号は、十分区別し得るものであること等を総合勘案すれば、請求人が本願商標をその指定商品について使用したとしても、それが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するものとは言うことはできない。

(6)結び
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当でなく取消しを免れない。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '10/10/01