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 商標「ざくぎリッチ」を「ざくぎりッチ」とする補正は、称呼を同じくするとしても、外観における第4文字目の相違により、商標の同一性を損なわないとは言えないため、要旨変更と判断された事例
(補正2009-500016、平成22年2月8日審決、審決公報第125号)
 
1 本願商標
 本願商標は、「ざくぎリッチ」の文字を標準文字で表してなり、第30類の商品を指定商品として、平成21年3月18日に登録出願されたものである。その後、商標登録を受けようとする商標について、同年6月22日付提出の手続補正書により、「ざくぎりッチ」の文字を標準文字で表してなる商標に補正されたものである。

2 原審の補正の却下の決定の理由(要点)
 原審における補正の却下の決定は、「本願商標について、上記1の手続補正書により補正された商標は、願書に記載された商標とその構成を異にする。したがって、この補正は、その要旨を変更するものと認める。」として、平成21年9月2日付け補正の却下の決定をしたものである。

3 当審の判断
(1)補正前後の商標について
 本願商標は、上記に示す通り、「ざくぎリッチ」の文字を標準文字で表す商標(以下、「補正前の商標」という。)として、登録出願されたものであるが、その後、商標登録を受けようとする商標について、「ざくぎりッチ」の文字を標準文字で表す商標(以下、「補正後の商標」という。)に補正されたものである。
 そして当該補正は、第4文字目を別の文字に変更するものであり、外観上の明らかな差異を有する態様の文字である(後述(3)参照)。


(2)請求人の主張
 請求人は、「補正の前後における商標について、外観は同一性を実質的に損なわない。称呼は同一である。観念については、本願商標を構成する語から生じる観念から結合された商標の観念を判断させるものであり、本願商標を『ざくぎり』及び『リッチ』を、共通する称呼である『リ』部分で重複させて一体的に結合した造語として容易に類推しこれらの各語の意味より、『大きく切った野菜等を豊富に含んでなる商品』という共通の観念を生じさせ観念の実質的な同一性は損なわれない。よって、外観、称呼、観念等を総合的に比較検討しても、商標としての同一性を実質的に損なうものではなく、第三者に不測の不利益を及ぼす虞はないから、要旨変更には該当しない。」旨主張している。


(3)補正前と補正後の商標の同一性について
 補正前後の商標は、標準文字による商標登録出願であって、構成中の第4文字目において、補正前の商標中の片仮名文字の「リ」と補正後の商標中の平仮名文字「り」は、文字の種別において異なる文字であり、外観において明瞭な差異を有していることから、両商標は外観上、明らかな差異を有すると言わなければならない。
 観念については、請求人が自認するように本願商標の観念を判断する際には、平仮名文字と片仮名文字との相違に着目し、分断し、それぞれの語の有する意味を把握、理解して、そこから生じる観念を認識し、その後に結合された商標の観念を判断させるものであるというのが相当である。そこで、補正前と補正後の商標の観念について検討すると、補正前の商標においては、特定の意味を有さない「ざくぎ」の文字と特定の意味を有する既成の語「リッチ」の文字を結合した造語とみるのが相当である。一方、補正後の商標においては、特定の意味を有する既成の語「ざくぎり」と特定の意味を有さない「ッチ」の文字が結合した造語とみるのが相当である。
 してみれば、補正前の商標と補正後の商標とは、全体としては、特定の意味を有しない造語というべきであるから、観念においては比較することができない。
 次に、称呼についてみると、補正前と補正後の商標全体から生じる称呼「ザクギリッチ」を共通にする。
 そして、補正前と補正後の商標は、称呼を同じくするものであるとしても、外観において相違し、観念においては比較することができないため、その同一性を損なわないとは言えず、第三者に不測の不利益を及ぼす虞があるものと言わなければならない。
 以上の通り、補正前と補正後の商標は、その同一性を損なわないとは言えないものであるから、当該補正は要旨を変更するものと言わなければならない。


 したがって、原審における、補正却下の決定は、妥当なものであって、これを取り消すことはできない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '10/11/29