最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 商標「金比羅製麺」は、香川県仲多度郡琴平町所在の宗教法人金刀比羅宮の著名な略称『金比羅』を構成中に含み、かつ、その者の承諾を得ているとは認められないから、商標法第4条第1項第8号に該当する、と判断された事例
(不服2009-5250、平成22年4月13日審決、審決公報127号)
 
第1 本願商標
 本願商標は「金比羅製麺」の文字を標準文字で表してなり、第43類「麺類を主とする飲食物の提供」を指定役務として、平成19年2月12日に登録出願されたものである。

第2 原査定における拒絶の理由の要点
 原査定は、「本願商標は香川県仲多度郡琴平町所在の宗教法人金刀比羅宮の著名な略称『金比羅』の文字を構成中に含むものであり、かつ、その者の承諾を得ているとは認められない。従って、本願商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

第3 当審の判断
1 商標法第4条第1項第8号の趣旨は、最高裁平成16年(行ヒ)343号判決において、「人の氏名、名称等に対する人格的利益を保護することにあると解される。即ち、人は自らの承諾なしにその氏名、名称等を商標に使われることがない利益を保護されている。略称等についても、一般に本人を指し示すものと受け入れられている場合には、本人の氏名、名称と同様に保護に値すると考えられる。」旨、判示されている。
2 本願商標の商標法第4条第1項第8号の該当性について
(1)本願商標は、「金比羅製麺」の文字からなる処、「金比羅」が「仏法の守護神の一つ、香川県の金比羅宮のこと」を、又、「製麺」が「麺類を製造すること」を夫々意味する語であることが認められる(広辞苑)。
(2)本願商標の構成中「金比羅」の文字が「金刀比羅宮」の略称として全国的に知られていることは、各種新聞記事情報(詳細は審決参照)からも明らかであり、該文字は「香川県の金刀比羅宮を表示する標章であって著名なもの」に該当するものと認められる。
(3)請求人は、「香川県仲多度郡琴平町892−1」所在の「金刀比羅宮」から、本願商標を登録することについての承諾を得たことを証明するための書類(承諾書等)を提出していない。従って、本願商標は、これを登録することについて、他人の承諾を得たものとは認められない。
(4)前記の通り、本願商標は他人の名称の著名な略称を含む商標であって、かつ、当該他人の承諾を得ているものとは認められないものであるから、商標法第4条第1項第8号に該当するものと言わざるを得ない。
3 請求人の主張(要旨)について(省略)
4 まとめ
 以上によれば、本願商標を商標法第4条第1項第8号に該当するものとした原査定は、妥当であって、取り消すことはできない。
 よって、結論の通り審決する。


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B.  別掲商標は、アメリカ合衆国の国旗「星条旗」と基本的構成を同じくし、これをモチーフにデザイン化したものと認められ、青地部分において構成の違いがあるにしても、全体的には類似する商標であるから、商標法第4条第1項第1号に該当する、と判断された事例
(不服2009-650002、平成21年11月4日審決、審決公報第127号)
 
1 本願商標
 本願商標は、別掲の通りの構成よりなり、第5類に属する国際登録において指定された商品を指定商品(その後、補正されている。)として、2006年12月13日に国際登録されたものである。

2 原査定の拒絶の理由の要点
 原査定は、「本願商標は、左上の青地に白星ではなく『Mueller』の文字が書されている以外はアメリカ合衆国の国旗と外観上類似のものと認められる。従って、本願商標は商標法第4条第1項第1号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は、13本の赤白色のストライプ地に左上部には青地が配されており、該青地が全体に占める大きさ及び位置から判断すれば、青地部分における文字「Mueller」と白星図形との差異があるとしても、アメリカ合衆国の国旗と基本的構成を同じくし、星条旗をモチーフにデザイン化したものと容易に理解され、星条旗と酷似した印象を連想、想起せしめるものというのが相当である。
 してみると、本願商標を一私人である請求人が私的独占使用を目的として採択することは、アメリカ合衆国の尊厳、ひいては国際間の信義則を保つ観点から穏当でないものと言わざるを得ない。
 従って、本願商標は、アメリカ合衆国の国旗とその外観及び観念(星条旗)が類似するものであって、商標法第4条第1項第1号に該当するとして、本願を拒絶した原査定は妥当であり、取り消すことはできない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '11/02/13