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 別掲商標は、二宮尊徳と認められる歴史上の人物像を表してなるが、同氏と何ら関係ない請求人が、商標として独占使用することは、公益的な施策の遂行を阻害等して、社会通念上商道徳に反し、公正な商取引秩序を乱す虞がある、と判断された事例
(不服2007-26636、平成22年9月10日審決、審決公報第132号)
 
第1 本願商標
 本願商標は別掲の通りの構成よりなり、第21類及び第25類の商品を指定商品として、平成18年12年5日に登録出願されたものである。

第2 原査定の拒絶の理由(要旨)
 原査定は、「本願商標は江戸末期の篤農家『二宮尊徳』と認められる『しばを背負い、本を読む少年』の図形を表してなる処、これを同氏と何ら関係のない出願人が、商標として独占的に採択・使用することは、社会通念上及び公共性の観点からみても適当ではなく、本願商標は公序良俗に反する虞があるものと認める。従って、本願商標は商標法第4条第1項第7号に該当する」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

第3 当審における審尋及び 第4 審尋に対する請求人の回答−省略
 
第5 当審の判断
1 商標法第4条第1項第7号について
 「二宮尊徳」及びその像に関して、以下の事実が認められる。
(1)二宮尊徳の周知・著名性
 二宮尊徳は歴史上の有名人であって、一般にその名前や肖像及びその像が広く知られていることが認められるから、本願商標の登録出願時以前から、国民の間に広く知られた周知著名な歴史上の人物となっていたものであり、その周知著名性は現在においても継続しているものである。
(2)二宮尊徳に対する国民又は地域住民の認識
 二宮尊徳はその郷土やゆかりの地において、郷土の偉人として敬愛の念をもって親しまれている実情にあることが認められる。
(3)二宮尊徳の名称及びその像の利用状況
 小田原市には「二宮尊徳生家」とこれに隣接して「小田原市尊徳記念館」が存在し、記念館では二宮尊徳の生涯やその教えを学ぶ展示室を備えている。また、毎年10月には「尊徳祭」が行われている。
 神奈川県以外の二宮尊徳ゆかりの地においても、栃木県真岡市の「二宮尊徳資料館」、同県二宮町における「二宮尊徳の報徳仕法を活かした地域づくり」という資料館やゆかりの史跡の整備・保存のような取り組み、制作オペラ等のような様々な取り組みが行われている。
 また、二宮尊徳の像について、インターネット百科事典「Wikipedia」によれば、「各地の小学校等に多く建てられた『薪を背負いながら本を読んで歩く姿』に関する記述は、1881年発行の『報徳記』で確認され、1904年以降、国定教科書に修身の象徴として同人が取り上げられるようになったことから、昭和初期に各地の小学校に像が多く建てられた。栃木県芳賀郡二宮町では、町内の全小中学校に像があり、また小田原駅に尊徳の像が新しく建てられた。」旨の記載があり、日本各地の小中学校をはじめ各地には、「薪を背負いながら本を読んで歩く姿の二宮尊徳像」が建てられて、今なお現存していることが認められる。
 日本各地には二宮尊徳の像が現存していることに加え、小田原市、真岡市及び二宮町等では、同人に関連した観光振興や地域おこしに利用していることが認められる。
(4)上記の事実は、本件商標の出願前から現在においても継続している。
(5)二宮尊徳の名称及びその像の利用状況と本件商標の指定商品との関係
 一般に歴史上の人物の出身地やゆかりの地においては、その地の特産品や土産物にその者の名称及び像が表示されて、観光客等を対象に販売されており、二宮尊徳についても、同様である。本願商標の指定商品の中には、観光地の特産物や土産物となり得る商品が含まれ、実際に各地の市町村等が観光振興の土産物商品としている事実がある。
(6)請求人の主張に対する反論−省略
(7)上記実情を総合的に考慮すれば、本願商標は国民の間に広く知られた周知著名な歴史上の人物「二宮尊徳」を直ちに想起させる人物像としての特徴を全て兼ね備えるものであって、その指定商品について本願商標の商標登録を認めることは、「二宮尊徳」の名称及びその像を使用した観光振興や地域おこし等の公益的な施策の遂行を阻害することになり、また、社会公共の利益に反することとなると言い得るものである。
 してみれば、請求人が本願商標を登録出願した行為は、公共の財産ともいうべき人物像について、特定の者に独占使用させることになり、国民的な感情や公益的見地から好ましくない。
 したがって、本願商標は社会通念上商道徳に反するものであり、公正な商取引秩序を乱す虞があるばかりでなく、ひいては、公の秩序を害する虞があるというべきである。

2 まとめ
 以上の通りであるから、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとして、本願を拒絶した原査定は妥当であって、取り消すことはできない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '11/07/18