最近の注目審決・判決を紹介します。

 商標「吉田の火祭り」は、有名な祭りであって、地域の重要な観光資源であるから、該名称を一個人に独占的に使用権限を取得させることは、公正な競業秩序を害するだけでなく、商標権を巡る争い等無用の混乱を招く虞があり、社会公共の利益に反する、と判断された事例
(不服2010-3810、平成23年2月2日審決、審決公報第138号)
 
1 本願商標
 本願商標は「吉田の火祭り」の文字を書してなり、第30類に属する願書記載の商品を指定商品として、平成20年7月8日に登録出願され、指定商品については、その後、補正されている。

2 原査定の拒絶の理由
 原査定において、「本願商標は、山梨県指定無形民俗文化財である、著名な『吉田の火祭り』と同一の文字を書してなるものと認められる。ところで、一般にそういった文化財については、その地元の観光見学の対象となり、該名称を観光や土産物販売等の事業に用いて地域振興を図っているのが実情である。そうとすれば、山梨県指定無形民俗文化財名称からなる本願商標を、一私人に指定商品について独占使用を認めることは、公正な競業秩序を害するものであって、公の秩序及び一般的道徳観念に反し、穏当ではない。したがって、本願商標は商標法第4条第1項第7号に該当する。」と認定、判断し拒絶したものである。

3 当審の判断
 (1) 商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良な風俗を害する虞がある商標」には、商標の構成自体が、きよう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合及び商標の構成自体がそうでなくとも、指定商品について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も含まれると解される。
 (2) 本願商標は「吉田の火祭り」の文字を書してなる処、「吉田の火祭り」は、山梨県富士吉田市の北口本宮富士浅間神社と諏訪神社の秋祭りとして行われる「鎮火大祭」を称するものであり、山梨県の無形民俗文化財に指定されているものである。
 そして、「吉田の火祭り」は「日本三奇祭」の一つ等といわれ、観光ポスターの作成や観光ガイドブックに掲載される等し、当該祭には、例年約15万人程の見物客が訪れている。
 一般に、有名な祭礼(祭り)は、その地域の代表的な観光対象であり、地域の観光協会等による宣伝、広告が行われるほか、観光パンフレットやガイドブック等にも紹介され、多くの見物者が訪れているところである。そして、これらの見物客向けに当該祭にちなんだ記念商品や限定商品が、製造販売されるのが通例であり、例えば、本願の指定商品に含まれている「菓子」も、その代表例の一つといえる。このように、祭りにちなんだ各種商品が販売されるのは、それによって、祭りの参加者や見物人等需要者の購買意欲が高まり、結果として、売り上げに好影響をもたらすことが期待されるからである。さらに、有名な祭りは、その地域を代表する観光対象であることから、その祭りにちなむ上記商品は、その地域の土産品として、年間を通して販売されることも少なくない。
 近年、観光資源を利用した地域活性化のための取組が検討されている処であり、例えば、本願商標に係る「吉田の火祭り」についても、平成22年10月30日には、地域活性化を目指して全国に発信することを目的に歴史と伝統のある「炎の祭典(火祭り)」を集めた「第1回日本の火祭りサミットinはず」が愛知県幡豆町において、同町の「三河鳥羽の火祭り」、長野県野沢温泉村の「道祖神祭り」、愛知県岡崎市の「滝山寺鬼まつり」のほか、「吉田の火祭り」の関係者により開催されている。
 そうすると、当該「吉田の火祭り」においても、祭りが開催される時期や年間を通して、その地域周辺の業者においては誰もが自己の商品に「吉田の火祭り」標章の使用を欲するものと思われる処、かかる有名な祭りであり、地域の重要な観光資源である、その名称を一個人に独占的に使用権限を取得させることは、その地域周辺の競合業者による「吉田の火祭り」の標章の使用を不可能又は困難とするだけでなく、商標権を巡る争い等無用の混乱を招く虞があり適当でないというべきである。
 してみれば、本願商標について一個人が独占使用することは、公正な競合秩序を害する虞があり、社会公共の利益に反するものというべきであるから、本願商標は商標法第4条第1項第7号に該当する。
 (3) 有名な祭りについては、その祭りにちなんだ商品が年間を通して販売されていることも少なくなく、「吉田の火祭り」についても、大きな集客力があり、観光資源として地域経済に与える影響も小さくないというべきであって、本願商標を登録することは、公正な競合秩序を害する虞があり、社会公共の利益に反するというべきであるから、本願商標は商標法第4条第1項第7号に言う「公の秩序又は善良の風俗を害する虞がある商標」に該当するというのが相当である。
 したがって、請求人の主張は使用できない。
 (4) 以上の通り、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当であって、取り消すことができない。
 よって、結論の通り審決する。


〔戻る〕
鈴木正次特許事務所

最終更新日 '11/12/25