最近の注目審決・判決を紹介します。

A. 商標「HILTON」は、我国において「ヒルトンホテル」が著名と認められ、「ヒルトン」と称するのみでは他人の著名な略称とはいえないから、商標法第4条第1項第8号に該当しない、と判断された事例
(不服2010-26592、平成24年2月28日審決、審決公報第148号)
 
1 本願商標
 本願商標は「HILTON」の欧文字を書してなり、第9類、第18類、第25類に属する商品を指定商品として、平成21年3月30日に登録出願されたものである。

2 原査定の拒絶の理由の要点
 原査定は、「本願商標は、『HILTON』の文字よりなる処、これは数多くのホテルを世界各地に展開している世界的ホテル企業であるヒルトン・インターナショナル・カンパニーが系列諸会社の略称として使用する名称の著名な略称といわざるを得ないものであり、かつ、上記者の承諾を得たものとは認められないから、本願商標は商標法第4条第1項第8号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は「HILTON」の欧文字を横書きにしてなるものである処、原審にいうホテルは、現在アメリカのバージニア州マクリーン所在の「Hilton Worldwide,Inc」を中核とした系列諸会社が世界各地に展開するものであるが、同社及び系列諸会社(以下、まとめて「該他人」という。)は、我国において「ヒルトンホテル」として著名であると認められ、「ヒルトン」と称するのみでは、該他人を指し示すものと必ずしも特定されず、これを該他人の著名な略称であるとはいえない。
 してみれば、「HILTON」の文字を本願指定商品に使用したとしても、取引者、需要者をして、該他人を称するものと直ちに理解されるとはいえず、本願商標は他人の著名な略称からなるとはいえないから、本願商標から特定の他人が自然に想起され、そのことによって当該他人が社会的、経済的に何等かの不利益を被る可能性があるとはいえない。
 したがって、本願商標が商標法第4条第1項第8号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当ではなく、取消しを免れない。
 その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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B. 商標「マウント富士」は、「富士山」を認識させるとしても、商品の産地、販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえないから、商標法第3条第1項第3号に該当しない、と判断された事例
(不服2011-22347、平成24年2月20日審決、審決公報第148号)
 
1 本願商標
 本願商標は、「マウント富士」の文字を標準文字で表してなり、第30類に属する商品を指定商品として平成22年11月2日に登録出願され、その後、補正されている。

2 原査定の拒絶の理由の要点
 原査定は、「本願商標は、『富士山』を容易に認識させる『マウント富士』の文字を標準文字で表してなり、本願の指定商品中『菓子及びパン』等が富士山観光のお土産品として販売されている実情があるから、これをその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、これを商品の販売地と理解し、自他商品の識別標識とは認識しないものと判断するのが相当である。従って、本願商標は商品の産地、販売地を普通に用いられる方法で表示してなるものであり、商標法第3条第1項第3号に該当する」旨判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
 本願商標は、前記1の通り、「マウント富士」の文字を標準文字で表してなるものである。
 一般に、「富士山」を表す場合「富士山」と表記するのが自然であり、本願商標はそれとは異なる「マウント富士」の文字構成からなる。
 また、職権をもって調査するも、本願の指定商品を取り扱う業界において、「マウント富士」の文字が商品の産地、販売地を表示するものとして使用されている事実は発見することができず、さらに、当該商品の取引者、需要者が該文字を商品の産地、販売地を表示したものと認識するというべき事情も発見できない。
 してみれば、本願商標をその指定商品について使用する場合、たとえ「富士山」を認識させるとしても、その商品の産地、販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標ということはできない。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当でなく取消しを免れない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論の通り審決する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '12/9/2