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 商標(別掲(1))は、非営利団体が運営する公益に関する事業であって、営利を目的としないオリンピック競技会を表示する標章であって、著名なオリンピック・シンボル(別掲(2))と類似の商標であるから、商標法第4条第1項第6号に該当する、と判断された事例
(異議2010-900352、平成23年9月21日異議決定、審決公報第148号)
別掲(1) 本件商標


別掲(2)
 オリンピック・シンボル
 
1 本件商標
 本件登録第5342782号商標(以下、「本件商標」という。)は、別掲(1)の通りの構成よりなり、平成22年2月26日に登録出願され、第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」を指定役務として、同年7月1日に登録査定、同年8月6日に設定登録されたものである。

2 登録異議の申立ての理由の要点
 登録異議申立人(以下、「申立人」という。)は、本件商標は商標法第4条第1項第6号、同7号、同11号、同15号及び同19号に該当するものであるから、同法第43条の3の規定により、その登録を取り消すべきである旨申立て、証拠方法として、甲第1号証乃至甲第168号証を提出した。

3 本件商標に対する取消理由の要旨
 申立人は、オリンピック競技会を運営・統括する国際的な非政府の非営利団体である。そして、別掲(2)の標章(以下、「オリンピック・シンボル」という。)は、申立人が運営するオリンピック競技会を表象するものとして永年に亘り使用され、「五輪マーク」として日本の国民の間において広く親しまれているばかりでなく、全世界において広く知られているものである。
 そこで、本件商標とオリンピック・シンボルとの類否について検討する。
 本件商標は別掲(1)の通り、手書き風のほぼ同じ大きさの6個の輪を上下三段に互い違いに交差させて配置した構成からなる図形であり、上段の3個、中段の2個、下段の1個のそれぞれの輪が逆三角形状に配され、その上段の3個の輪、中段の2個の輪及び下段の1個の輪は、それぞれの斜め下又は斜め上に位置する他の輪と交差して描かれ、また、上段と中段の横方向に並ぶ輪は、それぞれ僅かに間隔を空けて配されている。
 これに対し、オリンピック・シンボルは、別掲(2)の通り、同じ大きさの5個の輪を上下二段に互い違いに交差させて配置した構成からなる図形からなり、上段の3個、下段の2個のそれぞれの輪が逆台形状に配され、上段の3個の輪及びその下の2個の輪は、それぞれの斜め下又は斜め上に位置する他の輪と交差して描かれ、横方向に並ぶ輪は、それぞれ僅かに間隔を空けて配されている。また、上段の3個の輪には、向かって左から青、黒、赤の色彩、下段の2個の輪には、向かって左から黄、緑の色彩が施されている。
 そこで、本件商標とオリンピック・シンボルの外観を対比すると、両者は色彩の有無と輪の個数に差異はあるとしても、(1)同じ(又はほぼ同じ)大きさの複数の輪から構成されている点、(2)上段に3個の輪が表され、その下に2個の輪が表されている点、(3)上段の3個の輪及びその下の2個の輪は、それぞれの斜め下又は斜め上に位置する他の輪と交差して描かれ、横方向に並ぶ輪はそれぞれ僅かに間隔を空けて配されている点において共通し、着想、構図などの構成の軌を一にするものといえる。
 さらに前記の通り、オリンピック・シンボルがオリンピック競技会を表象する著名な標章であることから、本年商標に接する者は、これからオリンピック・シンボルを容易に想起・連想し、本件商標とオリンピック・シンボルとを密接に結びつけて認識するものといえる。
 そうすると、本件商標とオリンピック・シンボルとは、外観上見誤る虞の高い類似の商標と言わざるを得ない。
 従って、本件商標は、非営利団体である申立人が運営する公益に関する事業であって、営利を目的としないオリンピック競技会を表示する標章であって、著名なオリンピック・シンボルと類似の商標であるから、商標法第4条第1項第6号に該当する。


4 商標権者の意見
 商標権者は、前記3の取消理由について、指定した期間内に意見を述べていない。

5 当審の判断
 平成23年7月11日付で前記3の取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、商標権者からは何等の応答もない。
 そして、前記3の取消理由は妥当なものであるから、本件商標の登録は、商標法第43条の3第2項の規定により取消すべきものである。
 よって、結論の通り決定する。


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鈴木正次特許事務所

最終更新日 '12/11/19